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ドン! ドン! ドン!
「そこに居るのは分かっているんだ! 出てこい!」
突然、ドアが外から力一杯叩かれた。
「ヒィ!」
スマホの電波も届かない山奥に隠れていたのに見つかった。
ドカン!
ドカン!
ドカン!
叩くのでは力不足だと覚ったのか、今度はドアが力一杯蹴られる。
ドアが蹴破られたら俺は終わりだ。
こんな羽目になったのは、あの夜……あの結婚式の前夜、逃げたからだろうな…………。
彼女をトップアイドルに育て上げた、芸能界の女帝の二つ名を持つ芸能事務所の社長で彼女の母親と言う瘤付きだったが、旬真っ盛りの美少女アイドルとの結婚式を明日に控えた結婚式前夜、新進新鋭の青年実業家の俺の下に1本の電話が掛かって来た。
掛けてきた相手は俺の腹心の部下で、高校大学時代からの親友だと思っていた奴。
「ヨウ! どうした?」
「最悪のニュースがあります」
「最悪のニュースだって? 何があった」
「会社の運営資金が全て、奪われました」
「な、何だって? だ、誰が!」
「私がです」
「え! どう言う事だ!」
「私はね、高校生の頃から貴方が憎くくて、憎くくて仕方がなかった。
不細工な面の私と違って貴方は2枚目で口達者。
私が好きになった女性を次から次に貴方は食い散らかす。
だから何時かこの悔しさを叩き付きてやろうと機会を窺っていたんですよ」
「り、理由は分かった。
でも、考え直してくれ! 頼む。
運営資金の中には、広域暴力団○○組の息が掛かった原黒ファイナンスに支払う金も含まれているんだぞ!」
「だからですよ、ハハハハ。
○○組に地獄まで追われてください。
じゃ失礼します」
その後うんともすんとも言わないスマホを睨みながら此れからの事を考える。
どうしよう? どうしよう?
原黒ファイナンスに事情を話しても……駄目だ、金の切れ目が縁の切れ目で追い込まれるのは確定だ。
どうしよう? どうしよう?
…………………………
そうだ!
俺も逃げよう。
此れからの事は、結婚式は明日だけど婚姻届はもう出してあるから夫婦になっているアイドルに押し付けてしまおう。
あれから半年。
金を持ち逃げした奴は原黒ファイナンスの社員に捕まり、何処かの山に埋められたと風の噂を耳にした。
ドッカァーン!
ドアが蹴り破られた。
「助けてー!
命ばかりはお助けをー!」
「命ばかりはだとー!
娘に全てを押し付けて不幸にしたお前を誰が許すかー!
クタバレー」
俺が最後に見たのは、刃物を持って俺目掛けて突っ込んで来る結婚相手の母親で、芸能界の女帝の姿だった。
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