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息が苦しい。
まるで、酸素が少ない狭い箱の中で身を小さく丸めているよう。
僕は手も足も縮こませて、その苦しさにただひたすら耐えている。
息が苦しくて胸が痛いくて、本当は目の前は開けているはずなのに、真っ暗でどこに行けばいいのかも分からない。
足元も見えず、道が見えない。
もうずっと、僕はこの苦しい暗闇の中で小さくなって待っている。いつかこの暗闇が終わるのを。
だけど、いくら待ってもそれは終わらない。
だから今日も、僕はこの息苦しい暗闇の中にいる。
どうしてこんなに苦しいのか。その答えを知っている。それは、好きになってはいけない人を好きになってしまったから。だけど、その人を好きになったのは僕の意思じゃない。7才の時、その人に初めて会ったその瞬間、僕の心はその人一色になってしまったのだ。
なんでか分からない。
その人が誰かも知らないうちから、僕の胸はどきどきして、壊れそうなくらい早く脈打った。顔が熱くなって息が苦しくなる。
その人は優しく笑って話しかけてくれるのに、僕の心臓はうるさいくらい鳴って、声を出すこともできない。
だけど。
一緒にいたい。
姿を見たい。
傍にいたい。
なのにいつもどきどきして顔が赤くなって話せなくなるから、僕はいつも誰かの陰に隠れていた。そんな風になっても、一緒の所にいたかったから。傍にいられなくても、同じ空間に居られたらそれでよかった。
なのに、それも出来なくなってしまった。
このどきどきがなんなのか分からなかったけど、いつも忘れられなくて、会いたかった。たまにしか会えないから、その会える日をいつも心待ちにしていたのに、それはある日突然訪れた。
いつものようにどきどきして、顔が熱くなった。なのにこの日はそれがどんどん酷くなって、身体も熱くなって、何かがおかしいと思ったその時、すぐ隣に居た兄が僕を抱え上げてその場から離れた。
そこからあまり覚えていない。
気がつくと僕はどこかの部屋のベッドに寝ていた。でも身体の熱は冷めなくて、身体のありとあらゆるところがむずむずして、落ち着かなくて、そして普段は決して触れないところが疼いて仕方がなかった。
触りたくて、触りたくて仕方が無くなった。
でも触っちゃダメな場所。
ダメだけど触りたい、だけど・・・。
その時、優しい声がした。
その人はとても綺麗で優しい僕のお義兄さん。
『目が覚めたの?ごめんね、傍にいなくて』
その人は優しく頭を撫でて、教えてくれた。
これは決して病気じゃないし、おかしくなった訳でもない。
しちゃいけないことなんて何も無いから、したいようにしていい。誰も見てないし、誰も聞いてない。
そしてやり方を教えてくれた。
手でのやり方。
道具を使ったやり方。
それを教えてくれて、その人は部屋を出ていった。
最後に大丈夫だよ、と言って。
その人がいなくなると、僕は必死に教えてもらったことをした。せざるを得なかった。
身体が熱くて、ぼやけた頭はそれが恥ずかしいなんて感じることなく、ただひたすら身体が求めるまま行った。そしてその間、ずっと思っていたのはあの人の事だった。
あの人の傍にいたい。
あの人に触れたい。
あの人に、触れられたい。
この手があの人だったらいいのに。
どうしようもなく疼くここをあの人にぐちゃぐちゃにしてもらいたい。
あの人が欲しい・・・。
それは始終夢の中の出来事のように、まるで熱に浮かされた悪夢のようだった。
そしてどれくらいたったのか、目が覚めると身体の疼きは治まり、長い夢から覚めたようだった。
それは僕の初めての発情期だった。
第二性の診断をするよりもずっと早くに、僕は第二性に目覚めてしまったのだ。そしてその時からあの人は、二度と僕に会ってはくれなくなった。
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