七年目の贈り物

1/13
512人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
息が苦しい。 まるで、酸素が少ない狭い箱の中で身を小さく丸めているよう。 僕は手も足も縮こませて、その苦しさにただひたすら耐えている。 息が苦しくて胸が痛いくて、本当は目の前は開けているはずなのに、真っ暗でどこに行けばいいのかも分からない。 足元も見えず、道が見えない。 もうずっと、僕はこの苦しい暗闇の中で小さくなって待っている。いつかこの暗闇が終わるのを。 だけど、いくら待ってもそれは終わらない。 だから今日も、僕はこの息苦しい暗闇の中にいる。 どうしてこんなに苦しいのか。その答えを知っている。それは、好きになってはいけない人を好きになってしまったから。だけど、その人を好きになったのは僕の意思じゃない。7才の時、その人に初めて会ったその瞬間、僕の心はその人一色になってしまったのだ。 なんでか分からない。 その人が誰かも知らないうちから、僕の胸はどきどきして、壊れそうなくらい早く脈打った。顔が熱くなって息が苦しくなる。 その人は優しく笑って話しかけてくれるのに、僕の心臓はうるさいくらい鳴って、声を出すこともできない。 だけど。 一緒にいたい。 姿を見たい。 傍にいたい。 なのにいつもどきどきして顔が赤くなって話せなくなるから、僕はいつも誰かの陰に隠れていた。そんな風になっても、一緒の所にいたかったから。傍にいられなくても、同じ空間に居られたらそれでよかった。 なのに、それも出来なくなってしまった。 このどきどきがなんなのか分からなかったけど、いつも忘れられなくて、会いたかった。たまにしか会えないから、その会える日をいつも心待ちにしていたのに、それはある日突然訪れた。 いつものようにどきどきして、顔が熱くなった。なのにこの日はそれがどんどん酷くなって、身体も熱くなって、何かがおかしいと思ったその時、すぐ隣に居た兄が僕を抱え上げてその場から離れた。 そこからあまり覚えていない。 気がつくと僕はどこかの部屋のベッドに寝ていた。でも身体の熱は冷めなくて、身体のありとあらゆるところがむずむずして、落ち着かなくて、そして普段は決して触れないところが疼いて仕方がなかった。 触りたくて、触りたくて仕方が無くなった。 でも触っちゃダメな場所。 ダメだけど触りたい、だけど・・・。 その時、優しい声がした。 その人はとても綺麗で優しい僕のお義兄(にい)さん。 『目が覚めたの?ごめんね、傍にいなくて』 その人は優しく頭を撫でて、教えてくれた。 これは決して病気じゃないし、おかしくなった訳でもない。 しちゃいけないことなんて何も無いから、したいようにしていい。誰も見てないし、誰も聞いてない。 そしてやり方を教えてくれた。 手でのやり方。 道具を使ったやり方。 それを教えてくれて、その人は部屋を出ていった。 最後に大丈夫だよ、と言って。 その人がいなくなると、僕は必死に教えてもらったことをした。せざるを得なかった。 身体が熱くて、ぼやけた頭はそれが恥ずかしいなんて感じることなく、ただひたすら身体が求めるまま行った。そしてその間、ずっと思っていたのはあの人の事だった。 あの人の傍にいたい。 あの人に触れたい。 あの人に、触れられたい。 この手があの人だったらいいのに。 どうしようもなく疼くここ(・・)をあの人にぐちゃぐちゃにしてもらいたい。 あの人が欲しい・・・。 それは始終夢の中の出来事のように、まるで熱に浮かされた悪夢のようだった。 そしてどれくらいたったのか、目が覚めると身体の疼きは治まり、長い夢から覚めたようだった。 それは僕の初めての発情期だった。 第二性の診断をするよりもずっと早くに、僕は第二性に目覚めてしまったのだ。そしてその時からあの人は、二度と僕に会ってはくれなくなった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!