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2021.03.10. その日の話
3月11日14時46分に「潮と鎖-うしおとくさり-」という作品をリリース致します。
https://estar.jp/novels/25694894
2020年8月の妄コン「あと五分」向けに書いたものですが、諸事情によりリリースの機会を逃し長らく寝かせていたものです。
あの当時、私は東京の自宅におりました。
震度は四でしたが、それまで経験したことのある揺れでは無く、何かのアトラクションのように家全体が平行に大きく揺さぶられ、乗り物酔いと同じ感覚に襲われたのを覚えています。
その日はひどい春の嵐が吹き荒れ、まさか世界の終わりが来たのか、と思ったのも覚えています。
テレビをつけると被災地の映像が流れ、それは想像の中にあるような、それまで世で描かれてきたような「高波」では無く、いつ終わるとも知れぬ海水面の上昇による洪水で、見る間に港の施設が水没していきました。
いつもなら全てを知ったようにニュースを語るキャスターたちが、ぼんやりと「水がどんどん増えていますね、建物がすっかり沈んでしまいました」程度のことだけを言い続けていたのも覚えています。
その後は、ネットで海外メディアが報じた映像を観たり、スーパーから食品やペーパー類が買い占められたり、原発の屋根が爆発で吹き飛んだり、放射性物質の被害やデマが拡散したり、被災地から避難してきた者への差別といじめが発生したり、輪番停電で街が闇に包まれたり、瓦礫の中で入り乱れる絶望と奇跡の話が流れてきたり、ボランティアや支援物資の活躍と迷惑があったり、地震の直前に全国の障害者が一斉に「ゆらゆら」と言い出したとかいうデマが広がったり、一人の僧侶が被災地を行脚して祈りを捧げて回っている画像を見たり、被災地で盗難被害が相次いだり、被災地の瓦礫が遠く北米にまで流れ着いたり、避難所での自殺が生じたり、「幽霊が出た」と誰かが言うと行方不明の家族では無いかと皆が一斉にその場所へ駆け出して行くと聞いたり、語り尽くせぬ数多の現実がありました。
十年経ってもまだ終わっていないことがいくらでもあります。
それでも今日まで踏み留まり歩んできた軌跡も確かにあります。
だとすれば書くべきはその軌跡と未来への希望の話なのかも知れませんが、その十年を現場で現実に積み上げてきた当事者では無い私にはとても書けません。
なのでせめて少し違う目線からのこの話を、謹んで記すことに致します。
世界が常に平穏であることを希っております。
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