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「もう我慢ならねぇ!オルビス、次はおまえのその鼻へし折ってやるよ!来いよ、怖気づいたかコラ」
「思い切り頭突きしておいてその言いぐさか、アートルム、この野蛮人。今日こそその中身のない石頭吹っ飛ばしてくれるわ」
「だらげぼぁーーーーー」
「まあまあ、二人ともそのへんにしとこうよ。……やりすぎだオルビス。アートルムが壁にめりこんでるじゃないか」
「ウェントゥス。こいつがその程度でどうにかなるものか。手ぬるかったな、どれ……」
「とどめはまたの機会にね。オルビス、開校以来の天災と呼ばれる君が本気を出しちゃ街ごと吹き飛ぶからね。ほら、そんなに暴れるから教授たちの足音がするよ」
「天災とは解せぬ」
「おや、ちゃんと聞いてたのか」
歴史あるモートリア大陸魔術大学の自習室。
数えきれないほどの小競り合いを繰り返す二人をなだめるのは、生真面目な突っ込み役ウェントゥスと、常識人である私の役割だった。
私は『勤勉・克己・友愛』と書かれた色あせた額縁を、そっと元あった場所へ戻した。
「これはどうしたことかね、ロクイー」
「すみませんフェリクス師。きちんと片づけさせますので」
こうやって私まで巻き込まれるのも、もうすっかり慣れっこだった。
大学の最高導師であるグラウェ師に、いつも補佐としてはりついているのがこのフェリクス師だ。
かつては人々から畏れられた大魔術師グラウェ師も、今はもふもふしたぬいぐるみのようで、多少耄碌しているとの噂もある。
「まあまあ、フェリクスちゃん。元気なことはよいことだよ」
「グラウェ師……もういいです。話が進まないから本題に入りましょう。オルビス、ロクイ―、ウェントゥス、アートルム。ちょうど四人揃っているとは好都合だ。君たち四人にはグラウェ師と共に大陸最西端のカルヌー王国へ現地調査に入ってほしい」
「カルヌー?砂漠ばかりの僻地ではなかったか?何の価値がある」
オルビスは教授たちに対しても態度や言葉遣いが変わらない。
北方のティルエ魔法国の王族で気位が高いが、それを抜きにしても決してつき合いやすい人間ではない。
そんな彼と対等に話せるウェントゥスや、殴り合いの喧嘩ができるアートルムはある意味大物なのだろう。
「そう、元から何もない土地ではあるが、周辺のわずかな緑地、水場が急速に消えたという報告が入っている。詳細を調べてほしい。あくまでも調査だということを決して忘れないように」
激務とグラウェ師のお守りで頭髪が後退しつつあるフェリクス師が話すと、切なさが増した。
そしてこの時には、事の重大さを誰一人理解してはいなかった。
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