終わり始まる前の夜に

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飛空船(ひくうせん)と呼ばれる乗り物がある。 最高位の魔術師だけが扱える瞬間移動を除けば、今の時点では大陸で一番速い移動手段である。 飛空船は、自然の中にある(フォルティア)を動力としている。また、(フォルティア)は魔術を扱う種族には多少の差はあるものの、生まれつき備わっている。 そんな説明などどうでもいい。 問題は、大学が借りてくれた小型飛空船の内部が非常に狭いことである。 小柄なグラウェ師、細身の私や中肉中背のウェントゥスならば問題はない。 だが、縦にも横にもかさばる上に長大な剣を背負ったアートルムと、無駄に豪奢なローブを纏った長身のオルビスを積むとどうなるか。 「おーっ、いい眺めだな!へー、話には聞いてたけどペルネー湖って本当に翼を広げた鳥の形なんだな」 「わー、アートルム、子どもじゃないんだから窓に寄るな!」 私はアートルムの上着の裾を掴んで引っ張ったが、脳筋アートルムはびくともしない。 「え?遠足だろ?楽しまなきゃ損だろう」 グラウェ師はにこにこと笑うばかりで、飛空船はかわいそうなくらいに傾いている。 「何とかと煙は高い所が好きなものだが、目の当たりにするとため息も出ぬな」 オルビスが大げさにため息をついた。 「オルビス。降りろよ。今日こそは決着をつけようぜ」 「断る。一人で降りろ今すぐ。グラウェ師。このような次元の低い(やから)と同じ空気を吸うのはこれ以上我慢がならない。瞬間移動の術を使用する許可を戴けぬか」 オルビスの力であれば最高難度の長距離瞬間移動も可能ではあるが、この術は自然の力の均衡を崩すのと同時に、空間の歪みを生む危険をはらんでいる。 そのため、学生には使用する資格が与えられない術の一つだった。 「い~よ~」 事もなげに答えたグラウェ師を、私はもう少しで羽交い絞めにするところだった。 「え?いいの?グゥちゃん?」 言い出したオルビスは何故かそっぽを向いてしまい、反応したのはアートルムだった。 術符の読み書きができないのに、余ってあふれるほどの力で叩き斬るように術を発動するので、歩く理不尽と呼ばれている。 最高導師をちゃん付けで呼ぶのはこの男ぐらいだが、グラウェ師は気にする様子もない。 「そうだね~、アートルムくん。魔法陣がなく、地面から離れた場所での瞬間移動の詠唱にかかる時間はどれくらいかねぇ」 「うーん、やってみなきゃわかんねぇそんなの」 「オルビスくんはわかるかい?」 「三日と三刻半だ」 「おおう、さすがオルビスくんだねぇ」 グラウェ師は嬉しそうに手を叩いた。 「そして飛空船は二日もあれば大陸の西端まで飛べるんだなあ、目的地まであと一日半、どうする?オルビス?」 ウェントゥスが何気なく尋ねた。 皮肉でもなさそうなのがウェントゥスのすごいところで、オルビスは心底嫌そうに舌打ちして黙り込んだ。 87f9d5eb-0d83-4843-a00c-b5efcfea2aab
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