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飛空船から見えた西の地は異様だった。
何の生命も育まない、白茶けた砂がどこまでも続いているだけだった。
降り立って、オルビスは珍しく困惑したように口を開いた。
「自然の力が全く働いていない。人が生活の中で力を汲み上げ過ぎたところでこうはならない……」
オルビスの生まれた魔法国は、大陸の中でも最も濃厚な力を纏った国だ。
このような状況は理解を超えるに違いない。
「オルビスくんの言うとおり、行き過ぎた灌漑や牧畜では土地の力が弱まることはあっても無くなることはないね。みんな、考えられることは何か、予測はつくかい?」
グラウェ師が講義らしい講義をするのはこれが初めてだということに私は気づいた。
不謹慎だが、何だか感慨深い。
「魔術しかないと思います。しかし魔術師が一度に使える力というのは、このように土地を荒らさないように制限されていますから、おそらくは禁術を使ったのではないかと」
私は思いつくことを述べたが、これくらいは誰にでも想像がつくだろう。
「俺の生まれた国にもこれよりはずっと小さいけれど砂漠がある。今以上に砂地が広がらないように、魔術師たちが力を注いでいる。力の吸い上げ過ぎでそうなったと言われてて、国あげて土地を固定して草木も植えてるんだけどなあ。食うにも困ってるくらい貧しい地区ではそれすら食い尽くすほどだ。この土地はそれに近いと思ったけど、規模が違い過ぎる」
アートルムが育ったナーラド国は火山が多く、土地はやせている。
その代わり、魔剣士と魔法鍛冶師の数は他国とは比較にならないほど多い。
自然と魔術の共存は、昔からこの国の課題とされていた。
それにしてもアートルムがこうやってまともな話をするのは、今まで聞いたことがなかった。
グラウェ師は頷きながら、ウェントゥスにも話を振った。
「ウェントゥスくんの考えを聞かせてもらえるかい?」
「僕たちは自身の持つ力が底をついた時には、周りの自然からごく少量の力を汲み上げて自らの命を護ります。汲み上げる力は、経験し訓練することで微量なら増やすことができますね。僕たちが教えられたのはここまでです。ただ、生まれついての力持ちならわけが違う。これは仮定ですが、多分、自分が蓄えられる力を超えても、自然の中から力を汲み上げ続けられる人がいます。おそらく、ここにいる全員がそうですよね」
これまで深く考えず、考えたとしても口には出せなかったことをウェントゥスは語った。
ウェントゥスは貧しい家庭に育ったが、持ち前の聡明さで大学の奨学生となった。
目立たないが、その意見には誰もが耳を傾ける。
今回も全員が沈黙した。
私も含めて、心当たりがあるのだろう。
「これほどの土地の枯渇、複数の力持ちが規則を無視して見境なく力を汲み上げたせいだとしたら、説明がつきませんか?」
ウェントゥスは仮定だと前置きしたが、ほとんど確信しているのではないかと思えた。
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