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そう、孤児だった私は、鑑定の力をヴィアム商国の評議会長に見込まれ養子となった。
持つ力を、国の利益のためだけにひたすらに使った。
そうすることでしか存在を許されなかったのだ。
グラウェ師が大学に引き取ってくれたおかげで、私は初めて人間として扱われた。
その場所を失うことは考えられなかった。
だが、他の三人はどうだろう。
オルビスは規則に縛られ、力の半分も発揮してはいない。
アートルムは大学には向かないが、他の場所ならば活躍できる力がある。
ウェントゥスの持っている力の量は無尽蔵だ。
「さて、帰ろうかねえ。おなかもすいたし」
グラウェ師は、何事もなかったようにいつもどおりだが、その胸中は穏やかであるはずがない。
「あのう、グラウェ師、この地の実物見本を持ち帰ったり、周辺の聞き込み調査は……?」
私は気が乗らないまでも、そう尋ねてみた。
「おそらくはそれよりもイデアという組織のことを調べなくてはならなくなるだろうねえ。法も、常識や良心なども乗り越える連中とどう向き合うか。思っているよりもずっと異常なことが起こっている。そう考えなくてはならないのだろうね」
グラウェ師の言葉どおり、その後の私たちの生活は変わっていった。
カルヌー王国をはじめ、大陸西方の国が次々にイデアと手を組んだ。
経済的には貧しいが、自然の力が手つかずで残っている国々だった。
イデアの力は、大学の中にも深く及んでいた。
元から大学に不満を持っていた者、自分の力を認められていないと感じる者、力を誇示したい者。
教授、学生に関わらず、イデアの考えに賛同する者は増えていった。
いつしか力を持つ魔術師をそれぞれの国が担ぎ出し、イデアに対抗するために大陸全土を巻き込む大戦が勃発した。
魔術師、魔剣士、魔法鍛冶師、鑑定士。
分業だったはずなのに、適性などは無視され戦いに必要な技ばかりを全部詰め込まれ、私たちは戦場へと送られた。
生まれも性格もバラバラだった私たちだが、激しい戦いの中でそれぞれを認める仲になっていた。
オルビスに言おうものなら最大火力の火嵐の術で焼かれるに違いないが、親友と呼んでも良かっただろう。
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