ビター♥ガイ

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 煙草をすり潰して火を消すと、吸い殻をそのまま灰皿に投げ入れる。肺に残った最後の煙を空に向かって燻らせながら、ぽつりと心の中でつぶやいた。ずるい言い方だったよな。あれじゃ肯定しろと言ってるようなもんだ。元々調子の良い日と悪い日が交互に来るムラのある子だったけれど、あの日以来明らかに落ち込んでいる様子が見てとれる。ここ最近笑った顔も見てないし。俺のせいで調子崩させてるなんて、カウンセラー失格だな。背後の壁に後頭部をぶつけて、上を向いたままずるずると滑っていく。建物の隙間から見える空の青が眩しくて、手で瞼を覆うと、脳裏にはやっぱり、あの子が映っていた。恥じらいながら微笑む姿に胸が締め付けられる。でもまだ、この気持ちをはっきりさせちゃダメなんだ。ぐっと息を詰めると、煙草の苦い味が甘い余韻を搔き消した。
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