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中学二年生の時、いじめられていたことがあった。きっかけは、同じグループにいた子が言った「しゃべり方が気持ち悪い」という一言。以前から他の人と会話のテンポが合っていないことはわかっていた。でもそんなことを言われたことは今まで一度もなくて、最初はからかい程度の冗談だと思っていた。けれど、次第にわたしが話すたびに「きもい」と一蹴されるようになり、ついにはグループ内で無視されるようになった。元々話すのが得意ではなかったわたしは、それからますます話すことができなくなってしまい、そうしているうちに、無視はクラス全体に伝染して、もうわたしの存在を認識してくれる人は誰もいなくなった。
ひとりぼっちでもそれはそれで受け入れていけばよかったものの、弱いわたしは精神的に追い込まれていった。教室にひとりでいるのがこわい。でも、勇気を出して話しかけてまた「きもい」と言われるのもこわかった。何もできずに悶々と過ごすうちに、急にお腹が痛くなったり、常に体がだるかったり、肉体的にも症状が出てくるようになった。両親に心配をかけたくないから、学校に行かないわけにもいかない。こんな状況から抜け出すにはどうしたらいいんだろう。悩みながら帰り道を歩いていた時、道端で猫が死んでいた。痩せ細ったその死骸の顔は、なぜだか幸せそうに笑っているように見えた。死んだら、楽になれるのかな。ふとそんな思考が湧き出て、家に着くと気付いたら手首にカミソリを当てていた。深く切り込む前に母に見つかって、幸い少し血が出ただけで済んだ。でも心には深く傷がついて、血を流していたのだと思う。
いじめの事実が明るみに出てほどなくして、わたしは転校した。新しい学校、新しいクラスメイト。誰もわたしをいじめていた人はいないはずなのに、学校で一言も話すことができなかった。声を出そうとすれば不安が押し寄せてきて、喉が絞まるような感覚に陥る。話しかけて無視されたらどうしよう。言葉を間違えて嫌われたらどうしよう。もし話してまた、「きもい」と言われたらどうしよう。そんな思考がわたしを縛り付けて、身動きをできなくする。次第に学校に行くこと自体が億劫になって、家に籠りきりになってしまった。そんなわたしを見かねた両親が連れていってくれたのは、病院の心療内科だった。そこでわたしは、彼に出逢ったのだ。
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