今から鏡の話をします

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「どうしたんですか?」  児童が聞く。 「今にも鼻水が垂れそうだよ。君、ティッシュ持ってない?」 「も、持ってます」  高い鼻を片手で押さえながら、児童にポケットティッシュを催促する。エレン先生のその姿が面白いのか、彼は緩んだ口元を右手で隠しながら、左手で手渡した。 「ありがとう、助かったよ」  鼻をかみ終わったエレン先生は続けた。 「七海(ななみ)はどんな時に鏡を見る?」  六年生の児童は言った。 「私はけっこう見ますよ。今もポケットに入ってるし」 「へえ。さすがお洒落さんだね。どんな時にそれを出すの?」 「リップ塗る時とか、目に何か入った気がした時とか、あと単純に、なんとなく見たくなった時」  僕も君の顔に産まれていたらたくさん見ちゃうだろうな、とエレン先生は呟いた。
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