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「マジか」立ち上がる。早歩きで海沿いの柵まで行き身を乗り出した。潜水艦。絵に描いたクジラが海の上に背中だけ覗かせているように見える。その背に数十名の自衛官が整列している。白い制服を着た人と青い作業服に救命胴衣を着けた人。スーツケースを引いて二郎君が俺の隣に立った。腕時計を見るとあと数秒で午前8時になろうとしている。俺は顔を上げた。潮風に乗ってラッパの音が響いた。柵の下で波がぶつかる穏やかな水音とラッパの音色。ここは宮城の海じゃない。実感した瞬間だった。これが横須賀の海なんだ。二郎君の故郷の海なんだ。
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