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ケホっと小さく咳こんだ。
途絶える事のない煙、嗅ぎなれない香り。
「くせぇ」
おれは小さく呟いた。
周りには誰もいないせいか、やけにその声が響く。
黒ブチの写真。
周りを飾る花。
ゆらり、と流れる線香の煙。
今日は父親の葬式だった。
さっきまでいた親戚はいつの間にか、いなくなってた。
そんなにボンヤリしていたのかと時計を見れば、もう30分もすれば日を跨ぐ時間だった。
「…疲れた」
ゆっくり立ち上がり、座りっぱなしで縮んだ背中を伸ばすと、
「お休み」
仏壇の横に並ぶ二つの写真に向けて声をかけた。
一つは今日葬式だった父親、もう一つは2ヶ月前に亡くなった母親。
おれは短期間で両親を亡くした。
天涯孤独になったわけじゃない。
祖父母も親戚もいる。
只、この家にいるのはおれ一人だった。
線香の煙で霞んだ部屋を後にして、自室のベッドに転がった。
目を瞑っても眠れそうにない。ぼんやり天井を見上げて思い出すのは父親が母親に告げた言葉。
「お前がいなきゃ、生きていけない」
病室の母親の傍らに座って、そう呟いた。
確かに子供のおれから見ても、父親は甘ったれで母親に依存した人間だったと思う。
弱い人だと思っていた。
母親が死んで2ヶ月、父親は首を吊った…。
「ホントに死ぬなんてな…」
あり得ねぇだろ、子供もいて仕事してる大の男が、妻が死んだからって後を追うなんて……。
「ありえねぇよ…」
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