第1章

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 ケホっと小さく咳こんだ。 途絶える事のない煙、嗅ぎなれない香り。 「くせぇ」  おれは小さく呟いた。  周りには誰もいないせいか、やけにその声が響く。  黒ブチの写真。  周りを飾る花。  ゆらり、と流れる線香の煙。  今日は父親の葬式だった。  さっきまでいた親戚はいつの間にか、いなくなってた。  そんなにボンヤリしていたのかと時計を見れば、もう30分もすれば日を跨ぐ時間だった。 「…疲れた」  ゆっくり立ち上がり、座りっぱなしで縮んだ背中を伸ばすと、  「お休み」  仏壇の横に並ぶ二つの写真に向けて声をかけた。  一つは今日葬式だった父親、もう一つは2ヶ月前に亡くなった母親。  おれは短期間で両親を亡くした。  天涯孤独になったわけじゃない。  祖父母も親戚もいる。  只、この家にいるのはおれ一人だった。  線香の煙で霞んだ部屋を後にして、自室のベッドに転がった。  目を瞑っても眠れそうにない。ぼんやり天井を見上げて思い出すのは父親が母親に告げた言葉。  「お前がいなきゃ、生きていけない」  病室の母親の傍らに座って、そう呟いた。  確かに子供のおれから見ても、父親は甘ったれで母親に依存した人間だったと思う。  弱い人だと思っていた。  母親が死んで2ヶ月、父親は首を吊った…。  「ホントに死ぬなんてな…」  あり得ねぇだろ、子供もいて仕事してる大の男が、妻が死んだからって後を追うなんて……。  「ありえねぇよ…」
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