反逆 報復 あの日の月

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その瞬間、私の顔に温かい何かが走った。 ――涙? そう、私は、知らず知らずのうちに、はらはらと、大粒の涙をこぼしていた。 これは何の涙だろう? 一命を取り留めた、その喜びから来たものだろうか? それとも、彼に言われて改めて思い知らされた、この先の境遇に対する悲しみだろうか? 違う。 これは、安堵、から来たものだ。 全てが、変わってしまったこの国で、 目の前にいる彼だけが、変わらない心で居てくれたこと。 その絆を確かめられたこと。 それらに、私はひどく安心し、同時に、心揺さぶられた。 「ラウ、私は、私達は間違っていた。 私達は今まで、魔族の皆のことを」 「もう、言わないでください。姫様。 この数日、たいそうな不安を背負われていたことでしょう。 今、食事をお持ちします。 こんな狭い部屋ですが、 どうか今日は、ゆっくりとお休みください」 そう言って、彼は再び折檻部屋の扉を開く。 と、そこに真っ直ぐ降り注いできたのは。 「……綺麗」 白く柔らかい、月明かり。 彼の部屋の窓から射すそれは、ラウと私を、そっと包む。 その瞬間、彼はふわりと、微笑んだ。 「字を習っていた日々のことを、思い出しますね」 静かで、深く、優しい声。 彼は、もう二度と来ない私達のあの日々を、どこか、懐かしんでいる風でもある。 私は、後光が指したかのように輝く彼を見上げ、ゆっくりと、頷いた。
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