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考えてみれば、「魔族との共生」を歌っていた我国においても、彼らの立ち位置は、いつも人間より下だった。
雇用主と、労働者。
家主と、使用人。
それでも、文句ひとつ言わずに淡々と働く魔族たちに、
私達人間は、私は、甘えていたのだ。
逆らってこないから。反旗を向けてこないから。
知らず知らずのうちに存在した絶対的なヒエラルキーを、さも当然のように受け入れ享受しながらも、「魔族を尊重している」と世界に向けて発信していたなんて。
なんて、浅ましい。
だからこれは、罰なのだ。
今まで平気な顔で、魔族たちを虐げてきた私たちへの、私への、罰。
今更、過去を悔いても仕方がない。
私はこれから待ち受ける運命に、ただ、身をゆだねるしかないのだ。
兵に綱を引っ張られながら、廊下を歩く。
私の3歩ほど前には、ラウの背があった。
私はこれから、ラウの自室にあるという、「折檻部屋」に行く。
死ぬまで続くであろう地獄の日々が、今から始まるのだ。
窓から溢れる月明かりを辿り、ふと、外に目をやる。
この状況に陥ってから、時間の感覚というものを失っていた。
そうなんだ、今は、夜なんだ。
しかも、きれいな満月。
そういえば昔、こんな満月の夜、ラウを自室に呼び出して、字の書き方を教えたな。
ラウは読み書きができなかった。
そのせいで指示が通らないことがあるとこぼしていた誰かの愚痴を聞き、
私は夜、こっそり、彼を呼び出した。
最初はペンを持つことすらおぼつかなかった彼。
しかし、自身の努力によりラウは、一週間たらずで読み書きを習得した。
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