反逆 報復 あの日の月

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彼が最初に書いた言葉は、「アリーシュ」。 私の名だ。 「文字が書けるようになったら、一番最初に姫様の名を書こうと、そう決めておりました」 そう言って、ラウははにかんだ。 私も、微笑んだ。 私達の心は通じ合っている。 そう確信していた。 でも、今になって、思う。 それはただの、人間文化の押し付けではなかったか、と。 ラウは魔族だ。 なのに私は、彼の種族や文化を尊重せず、かわりに人間の文字、文化を強要した。 彼の気持ちなど、考えることなく。 それが正しいことと信じて疑わなかった。 それこそが、思い上がりだったのだ。 「……ラウ、ごめんね」 思わず、口から溢れた言葉。 その瞬間、横にいた兵士は私の縄を強く引く。 「無駄口を叩くなっ!!」 振り上げられた槍、しかし。 「止めろ。 これは俺の獲物だ。手を出すな」 声に驚き顔を上げる。 そこには、手で槍の柄を止めるラウがいた。 兵はすぐさま、申し訳ありませんとそれを降ろす。 月光に照らされたラウの瞳と目があった。 城に来た頃の幼い面影が、まだ少し、残っている。 「……ごめんね、だと? なんだ?この期に及んで命乞いか? 今から何をしたとて、お前の運命は変わらない。そんなことも分からないのか? 堕ちたものだな、アリーシュ姫」 そう言って、彼はせせら笑う。 私は口をつぐむと、そっと、俯いた。
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