第三章 ホテルで過ごす夜

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 穏やかな心地だった。  一日働いたあと、湯舟でひと息ついたときのように、今にも眠ってしまいそうだ。 (……違う。私、寝てたんだ)  微睡みから、ゆっくりと現実へ意識を向ける。  熱い吐息をはいて、快感にしびれる身体をくねらせた。 「ん……ぁ」  無意識にこぼれる声は、快感の色で塗られている。自分の声とは思えないけれど、身体を駆け抜ける快感に突き動かされるまま、有希は嬌声をあげた。 「あ、ふぅ、ん。きもち、いい」 「……目が覚めましたか?」  聞き覚えのある声に、ゆっくりと視線を向ける。  慎一郎が、すぐ隣で横になっていた。彼の長い指が、有希の乳房の先端をくにくにと弄っている。  すでに硬く尖った突起は、更なる刺激を欲してぷっくりと膨らんだ。  有希は、穏やかな表情で見つめてくる慎一郎に、笑みを返す。夢ではなかった。起きたときに慎一郎が傍にいてくれた嬉しさと、寝顔を見られた恥ずかしさから、有希は慎一郎の胸にすり寄った。  慎一郎はシャツを着ていて、有希だけが裸の状態だったが、シャツ越しでも慎一郎の身体が熱をもっているのがわかる。 「変な起こし方しないでくださいよ」 「何が、変なんです?」  すり寄ってきた有希を抱きしめた慎一郎は、有希の臀部を撫でると、後ろから秘部へ指を滑らせた。 「あっ」 「先ほど、ここを沢山触りましたが、痛くはありませんか? ……この、ぬるりとしたものは、血では?」 「――っ、ち、ちがっ」 「では、一体なんでしょう?」  なんてことを聞くのだろう、とねめつけた有希を、慎一郎が不敵に笑いながら見下ろす。慎一郎は、子どものような意地の悪そうな笑みを浮かべている。半面、嬉しくてたまらないといった好奇心と歓喜の感情もみせていて、有希は怒るに怒れない。  こんなふうに、楽しむ慎一郎の姿を見れたことが、嬉しかった。 「ちゃんと言えたら、ご褒美をあげましょうね」  慎一郎は、指を動かして、太ももの間にこぼれた愛液を指にこすりつけると、割れ目にそって、恥丘を撫でた。表面だけなんども往復する指は、じれったいほど、触れてほしいところを避けていく。 「有希?」 「……いじわる」 「有希が可愛いからですよ」  額にキスをされて、まるでお姫様のような気分になった――ところで、割れ目のなかへ、指が侵入してきた。お姫様ならば、もっと潔癖な目覚めのような気もするけれど、指の動きが優しくて、有希は悦びから頬を染めて顔を慎一郎の胸にすりつけた。 「まだ溢れてきますね」 「もっ、それ」 「これは、なんです? あまりこういったことに興味がなかったので、わからないことが多くて」 (う、嘘だっ)  ついさっき、有希が疲れて寝てしまうほどに、慎一郎は有希を悦ばせた。  舌や指、唇を巧みに使い、気持ちいい部分を探し出しては、大人の余裕でじっくりと攻め立てたのだ。さらに、優しい言葉をかけて心身ともに包み込むという手管は、かなり慣れているように思えたけれど。  顔をあげると、慎一郎が微笑んで有希をみていた。  有希が拒絶するとは考えていない、ある意味で純粋無垢な表情だ。ただじっと、有希の返事を待つ彼は、健気にさえみえた。 「……そ、それは」 「これは? なんです?」 「か、片瀬さんが、触るから……溢れてくるんですっ。つまり、その。そ、そういうやつです」 「……ふ。ふふふっ」  ふいに、慎一郎が笑みを深めた。  声に出して笑い始めたことにむっとするけれど、彼のまなざしが愛しみを灯していて、有希はまた、言葉を飲み込んだ。  寝ているときから触れられていたのか、全身は火照っていて、下腹部はじんじんと甘くしびれている。早く続きが欲しくて、有希は唇をきゅっと結び、慎一郎を上目遣いでみた。  慎一郎は笑顔のまま有希を強く抱きしめると、割れ目のなかに挿入れていた指を引き抜いた。 「あ」  喪失感にも似た寂しさに、思わず有希は声をあげる。  慎一郎は身体を起こしてベッドから降りると、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して蓋を軽く開け、有希へ差し出した。 「はい、ご褒美です」 「……え?」 「喉、乾いたでしょう?」  そう言って、慎一郎はベッド脇に座った。  有希は頷いて起き上がると、勘違いをしてしまった自分が消えたくなるくらいはずかしくて、俯きながらペットボトルを受け取る。  一口飲むと、思っていたよりも喉が渇いていたことがわかって、一気に半分近くの水を飲んだ。 「まだ、夜の八時です。何か食べに行きましょうか。それともルームサービスを頼みますか?」 「ルームサービスは割高なので、却下です」 「有希は、地に足がついてますね」  慎一郎は有希からペットボトルを取り上げると、小棹に置いた。半分弱ほど残っていた水が、ちゃぷりと音をたてる。  慎一郎の腕が有希の首の裏に宛がわれた、そう思った瞬間、ゆっくりと横たえられて、慎一郎が覆いかぶさってきた。  強く抱きしめられて、有希も抱きしめ返した。 「ずっと、有希とくっついていたいです。私が、こんなことを思うなんて」 「私も、くっついて、いたいです」  大きなぬくもりに包まれた有希は、慎一郎に喜んでほしくて、素直に返事を返した。  そのとき。  ぱっ、と慎一郎が顔をあげた。 「そうですか! よかった」  慎一郎は手を伸ばして、床から四角いビニールに入った避妊具を取り出した。 「……こんどーむ? え? どうして」 「買ってきました」 「ええ⁉ 今ですか!」 「はい。車でドラッグストアまで」  なんたる行動力。  驚いた有希だが、少し遅れて、慎一郎が車をとばしてまで避妊具を買ってきた意味を理解すると、頬を真っ赤にした。  そんなに、したいと思ってくれているのだ。 (これは、かなり……嬉しすぎて、やばい) 「片瀬さん、ありがとうございます。その、とても、嬉しいです」 「どうしようもなく肌を合わせたくて買いに行きましたが、有希が嫌ならやめるつもりでした。でも、先ほどの様子からしても、嫌ではなさそうですね」 「先ほど、って」 「指をひきぬいたとき。あなたから離れて水を取りに行ったとき。……寂しそうな表情を、していましたよ?」 「気づいていたんですかっ」  頬を赤くする有希を見て、慎一郎がくすりと笑った。 「有希のことを、もっと、知りたいのです。だから、よく見ることにしました。……まぁ、気づけば意識しているのですが」 「恥ずかしいことを堂々と言わないでください。反応に困ります」 「嫌、ですか?」 「嬉しいから、困るんですっ」  慎一郎が、唇を合わせてくる。  当然の成り行きのように、舌が挿入されて、じっくりと口内を愛撫された。有希も答えて、お互いの唾液を混ぜあうように、濃いキスを繰り返す。  やっと顔が離れたとき、慎一郎の上気した頬と緩んだ表情が見えて、有希は胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。  ぺろ、と慎一郎が、有希の唇についた唾液を舐めた。 「夕食は、どうしますか?」 「え? あ」  夕食のことなど忘れていた有希は、このあと夕食にするはずだったことを、思い出した。 「どこかへ食べに行くんでしたっけ。それとも、買ってきましょうか。私は、どっちでも大丈夫です。片瀬さんは、何か食べたいものがありますか?」  来る途中、ホテルの近くに、コンビニがあるのが見えた。あそこなら、徒歩でもいける距離だろう。 「それは、有希以外で、という意味ですか?」 「はい?」  コンビニならおにぎりがいいな、と考えていた有希の思考は、一瞬にして消えた。今、慎一郎はなんと言ったのか。 「私以外で、って……あ」  慎一郎が軽く笑って、太ももに下半身を押し付けてきた。慎一郎の昂ったものが、彼の服越しに熱を伝えてくる。 (あれ、さっき、もしかして片瀬さん、イケなかった? 最初に確か一度……どうしよう、そのあとは、私ばっかり気持ちよくなってたってこと?)  もしかして、避妊具を買いにいったのも、先ほどの情事では足りなかったのかもしれない。こんなに硬くそり立たせているのだから、少なくとも慎一郎は、食事よりも有希を求めているのだ。 「わ、私も、含めて、です」  勇気を出して、遠回しに誘い文句を言ってみた。お腹は減っているけれど、今は胸がいっぱいで、是が非でも食事にありつきたいわけではない。 「ならば、あなたが食べたいのですが」  また、慎一郎は自身の昂りを押し付けてくる。 「ほら、こんなになってしまっています。あなたが欲しくて、我慢がそろそろきついのです」 「どうしたら、いいですか?」  慎一郎がまた、有希の唇へ自身の唇を合わせた。  ついばむだけのキスを繰り返して、軽く上唇をはんだ慎一郎は、有希の首筋へ唇を滑らせた。 「私のことだけ、考えてください」 「は、ぁ、いっ……んっ」  慎一郎の唇が、首筋を降りていき、胸の先端で止まる。咥えるなり強く吸い上げられて、背中を仰け反らせた。意識が乳房に集中し、先ほど与えられた快感で潤んでいた下腹部が蜜をあふれさせる。  まるでそれを読んだように、慎一郎の男らしい硬い指が、有希の秘部に触れた。  泥濘へ指を差し入れられて、ビクッと身体が小さく跳ねる。さらに深い部分へ指が挿入っていき、内側から有希へ快感を与えた。親指が、感触を楽しむように女芽に触れる。指の腹で表面をこすられて、さらに愛液を溢れさせながら、有希の身体は快感に震えた。 「ひっ、ぁっ!」 「ここ、さっきとても可愛らしい反応をしてくれましたね」  ぐり、と指がナカで動いて、息をつめた。ぶわりと熱が腹の底から広がって、身体が弛緩する。じらされるように愛撫され続けた身体は、驚くほど簡単に絶頂を迎えた。  荒い呼吸を整えながら、ぼんやりと、服を脱ぐ慎一郎を見つめた。  ほっそりとした体格は、女性のような顔立ちと同じように線が細い。けれども、うっすらとついたしなやかな筋肉や広い肩幅は、男性のものだ。  見惚れていると、うっとり微笑んだ慎一郎と目が合った。  慎一郎は、有希の両足を広げて、自身の身体を間にいれる。熟れて蜜を垂らす秘部をじっくり見つめ、指先で割れ目を撫でた。 「ここに、挿入れますよ」  いつの間にか、避妊具が入っていたゴミがベッド脇に置いてある。あ、と思った瞬間、硬いそれが割れ目に押し付け割れた。 「いいですか?」  余裕そうに見えた慎一郎だが、その声はかすれている。額に浮かぶ汗も、乱れた呼吸も、彼が全身で有希を求めているのがわかった。  それだけで、有希はまた、蜜をこぼす。 「はやく、ください。奥に、片瀬さんの――ぁ、あっ」  言い終えるや否や、硬いものが押し付けられた。そう思った瞬間、割れ目を押し広げて、硬く熱い怒張がナカへと挿入ってくる。指とは比べ物にならない質量の熱に、無意識に腰が引いてしまうけれど、引いた分以上に慎一郎が距離をつめた。 「ひっ、ぁあっ」  ゆっくりと奥へ挿入ってくる熱に、シーツを掴んだ。  痛みはないけれど、圧迫感と、それ以上に擦れる快感があった。  欲しかった奥へ、さらに奥へと、慎一郎のものが侵入する。 「ああ、全部、はいりましたよ。……ほら」  ぐっ、と腰を押し付けられて、有希は声をあげた。有希の、快感と悦びの声を聞いた慎一郎の怒張は、さらに質量を増し、ゆるゆると、奥へこすりつけ始めた。  下腹部の奥が、慎一郎でいっぱいになる。 (嬉しい、嬉しい、嬉しい――)  繰り返される抽挿が、有希の思考を蕩けさせた。慎一郎と一体となって、目の前で自分の乳房が揺れるのが見える。 「か、たせ、さっ」  名前を呼んだ。 「かたせ、さんっ」  何度も。何度も。  ふと、慎一郎が有希の両足から手を離して、さらに深く、腰を押し付けた。 「ひっ!」  身体を仰け反らせた有希に、慎一郎が覆いかぶさった。押し付けられた唇を受け入れながら、下から力強く突かれる動きを全身で感じる。先ほどまでとは違う、奥で早く抽挿される動きに、呼吸がこれまで以上にあがっていく。 「有希っ、あっ、気持ちいいっ」  熱のこもった声が、すぐ傍で聞こえる。 「わたしも、すごく、いいっ」  両手を慎一郎の背中に回すと、汗ばんだ肌がしっとりと手にふれた。  それが合図のように、慎一郎は動きをさらに早めて、うわ言のように有希の名前を繰り返した。有希の意識もまた快感にぼやけて、慎一郎の背中に必死にしがみつく。 「有希っ、あ、もう、ああっ、有希っ」  力強く、奥を突かれたその瞬間。  有希の奥で、硬い熱が狂ったように膨張して、びくびくと痙攣した。避妊具越しに、吐き出された熱すぎる熱を感じて、有希の意識は真っ白に染まる。 「ひぃっ、ぁ――っ」  有希は、慎一郎にしがみついた。  ふたりで身体を硬直させて、快楽の渦のなか、お互いの存在だけを確認しあう。身体が弛緩したころ、どちらともなく目があって、唇を重ねた。  これまでよりも、一層はげしく、舌を絡ませあう。 「有希っ、ふぅ、足りませんっ、もっと」  もっとください、と慎一郎が繰り返す。  有希は、求められるままに受け入れた。体勢を変えて、何度も何度も、お互いの全身を知り合った。  途中で水を飲み、ひと息ついてからも、ベッドで肌を合わせて。空腹に気づいてコンビニで夕食を買い、食べたあとにも、またお互いを感じあった。  夜が更けて、朝になり、チェックアウトの時間を延長ぎりぎりまで伸ばしてから、ホテルを出た。
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