第五章 血の繋がり

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 朝と兼用の昼食を食べ終えたころ、美奈子から電話があった。有希は、慌てて寝室に駆け込んで美奈子と話をしてやっと、慎一郎が酷くふさぎ込んでいる理由を知る。  通話を終えて、有希は敷きっぱなしだった布団のうえに座り込んだ。 (……片瀬さん。私が実の姪でも、結婚したいって、思ってくれてるんだ)  それはつまり、若い娘がいいとか、そういった理由ではなく、有希本人でなければ駄目だということで。  ふいに、泣けてきた。  涙ぐむのを辞めたいのに、瞳から涙があふれてくる。  有希は、美奈子の気持ちを蔑ろにした自分をあさましいと思っている。母親の想い人を好きだと気づいた時点で、罪悪感が常にあった。  だから、慎一郎が美奈子の想いを知ったら――有希を軽蔑するのではないかと怯えていたのだ。有希にとって、美奈子の存在は大きくて、確実で、大切なものだから。  だが現実は、そうではなかった。  慎一郎が真っ先に悩んだのは、有希と自分が血縁者なのではないかということだった。そして、血縁者であってなお、傍にいてくれるという。  改めて、有希は自分の世界の狭さを知る。  有希にとって美奈子は偉大だが、慎一郎にとって美奈子はそれほど大きな存在ではないのだ。他人なのだから優先順位が違うのは当たり前で、大切に思うトコロも、悩むトコロも、違う。  慎一郎のなかで、有希はとてつもなく大きな存在になっている。  わかっていたつもりだった。  実感もしていた。  けれど、禁忌の間柄であっても傍にいてくれるという慎一郎の想いの強さは、有希の胸を痛いほどにしめつける。 (私は、幸せものだなぁ)  こんなに愛されて、大切にされて。 「有希、大丈夫ですか?」  ドアの向こうで声がした。返事をしようとして、ぐずりと鼻をすすった瞬間、ドアがひらいて慎一郎が入ってきた。 「……何か、あったのですか」  驚きに見開いた目で、涙を流して座り込んでいる有希を見た慎一郎は、すぐに有希の傍へきて、向かい合わせに座った。当たり前のように両手を伸ばして有希の身体を抱き上げると、腕のなかへすっぽりと収めてしまう。 「さっきの電話ですね? 誰からです?」 「えっと」 「有希の友人ですか」 「えっ、いえ」 「私も知っている方ですね」 「……はい」 「岳、でしょうか。あいつはふざけているように見えて、意外と真っ当ですからね。それとも手毬ですか。手毬の頭のなかは常に美奈子さん中心なので、あなたに酷いことを言ったのではありませんか? もしや、美奈子さんからですか?」 「待って、落ち着いてください。電話の相手はママですけど、何も言われてませんから」  慎一郎は、有希の涙を親指でぬぐって、有希の額に口づけをした。頬に、それから、唇にも、優しいキスをする。 「ですが……」 「この涙は、嬉しくて泣いてたんです」  苦笑しながら言うと、慎一郎は首を傾げた。さらっと彼の長い前髪が揺れる姿も、いとおしく感じる。 「片瀬さん」 「はい、なんでしょう」 「私が血の繋がった姪でも、結婚してくれるんですよね」 「ええ、勿論です」 「許されない関係でも」 「私たちを許さない人が、いないところへ行きましょう。もっと遠くへ、ああ、海外もいいですね。ふたりだけで、暮らしましょう」 「そこまで考えてくださってたなんて、私は本当に、幸せものです」  有希は、両手を伸ばして慎一郎の首筋にかじりついた。 (話さないと……血縁関係はないって。でも)  慎一郎は、自分が母親たちと血の繋がりがないことを、知らないらしい。そのことを有希の口から言ってもいいものか。慎一郎は、ショックを受けないだろうか。  有希は、自嘲した。  慎一郎は、昨夜十分すぎるほどのショックを受けただろう。どれだけ悩んで、答えを出してくれたのか想像するだけで苦しくなる。  慎一郎は、有希がいればいいと言ってくれるのだ。  そんな彼に、誤解をさせたままにすることはできない。  もし家族と血の繋がりがないと知って衝撃を受けるのなら、気持ちが落ち着くまで傍に居よう。実の親を知りたいというのなら、共に探そう。  慎一郎が触れてほしくないだろう、家族の話を、今から有希はする。 (大丈夫……嫌われたり、しないから)  有希が縋りついても、慎一郎は有希の手を振り払ったりしない。  そう確信できるほど、強い心を持てる自分が、とても誇らしく思えた。  ◇  自分の首に抱き着いたままの有希の背中を、そっと撫でる。  有希は小柄で、慎一郎の腕にすっぽりと収まってしまう。この小さな身体で、どれだけ辛い思いをしてきたのか、考えただけで苦しくて、知らないままでいた自分が、悔しくて情けない。  有希は、自分が父親の子ではないと知っていた。  母親、つまり、美奈子の不義の子であると知っていたという。おそらく、克哉本人は知らないことだろう。だが、有希に自覚があるということは、美奈子もまた、有希が克哉の子であると知っていて、有希に伝えたのだ。  有希は時折、幸せそうな表情で、過去を語る。  まだ父親がいたころの思い出を。  少なくとも有希は父親を愛していたし、愛されていたのだろう。  そんな大切な家族のなかで育った有希が、自分は父親の子ではないと知ったときどう感じたのか。想像するだけで、胸が痛む。  それだけではない。  有希は、なんの因果か、実の伯父である慎一郎と許されない関係になってしまった。慎一郎が、求めたばかりに。  けれど、慎一郎はもう、有希を手放せない。  こんなに愛しい存在をほかの男にやるなんて、自分以外の男が愛するなんて、想像しただけで気が狂ってしまいそうだ。 「有希。前に、沢山出かけましょうという話をしましたね」 「はい」 「どこか、行きたいところはありますか?」 「え? ……遊園地、とか」 「いいですね。ほかには?」 「ほかに? ええっと……温泉、とか」 「温泉もいいですね。内風呂がある旅館に泊まりたいです。ほかは?」 「うーん、と。……思い浮かびません。どこへ行っても、片瀬さんと一緒なら嬉しいですよ?」 「……可愛いことを言ってくれますね」  いいこいいこ、と頭を撫でれば、ややむくれた有希が上目遣いで顔をあげた。子ども扱いしましたね、と言う彼女は、自分の行動がどれだけ扇情的なのか、理解しているのだろうか。  慎一郎は、有希の頬にキスをした。 「片瀬さんって、キス、好きですね」 「岳いわく、私の考えは私が思っているほど相手に伝わっていないらしいのです。ですから、こうしてキスをしようと決めました。私の気持ちがあなたに伝わるように」 「充分、伝わってますよ?」 「まだまだ足りませんねぇ」  唇を合わせて、深くまで舌を差し込んだ。慣れなかったこの行為も、今では少しだけ余裕が出来て、ただ本能のままに貪るだけではない。有希の舌や歯茎、口内のあらゆる部分を感じて愛撫しながら、もっともっと、深くまで交じり合う。  唇を離すと、唾液がつたって落ちた。濡れた唇を少し開いたまま、ぼうっと頬を赤くする有希の表情に、ずくんと下腹部が甘く疼いた。 「……片瀬さん」 「なんです? ……っとっ!」  とん、と有希が床を蹴って、慎一郎の肩を抱きしめたまま、布団に押し倒した。不意を突かれて転がった慎一郎は、有希に怪我がないように、しっかりと抱き留める。  胸の上で顔をあげた有希は、頬を上気させたまま、すぐ近くから慎一郎を見下ろした。 「あのっ、私と片瀬さん。実は、血の繋がりなんてないんです」  有希の大きな瞳が潤んでいて、今にも涙がこぼれそうだ。  頬を赤くしたままの彼女に見下ろされて、見惚れていた慎一郎は、有希の言葉を理解するまでに時間がかかった。 「……はい?」 「片瀬さんのご家族には、色々と事情があるようで。片瀬さんは、生まれてすぐ、片瀬さんのお母様のもとへ預けられたって、聞いています」 「…………有希?」 「私は確かに、片瀬さんの弟の克哉さんの娘です。でも、片瀬さんとは、血が繋がってないんです。だから、倫理的にも、法律的にも、何も問題ないんです!」  うん、と大きく一人で頷いた有希は、慎一郎の反応を窺っている。  慎一郎は、有希の表情を見つめ返して、ややのち、ふと笑った。  笑いは徐々に大きくなって、やがて、有希を抱きしめて、有希の肩に顔を埋めた。 「必死な有希も、可愛い」 「片瀬さんっ!」 「わかってます、茶化していませんよ。……そうですか。血の繋がり、なかったんですね」  くす、と笑いながら言う慎一郎の頭を抱えて、有希が、「大丈夫ですか」ときく。何が大丈夫なのか、問い返して困らせてやろうかと思ったけれど、止めた。  構ってもらえて嬉しいとはいえ、あまり有希に心配はかけたくない。 「昨夜は、有希との関係が禁忌であると知って、衝撃でした。まだ若いあなたに、罪を背負わせてしまうことになりますから。ただでさえ、社会的に危うい関係ですのに。これ以上、あなたに辛い思いをしてほしくなかったんです。けれど、正直なところ、私の気持ちはこれっぽっちも揺らぎませんでした」  ぐり、と有希の肩に頬を摺り寄せる。こうしていると、甘やかされているようで、愛されていると実感できた。  親子ほど年の離れた有希が、慎一郎を抱きしめて頭を撫でてくれる。恥ずかしいのに、嬉しくて、胸や身体の全身が熱くなって、もっと沢山触れてほしくなる。 「真実を知ってあなたが離れていくのではないかと、今朝方まで怯えていました。でも、あなたは傍にいてくれると言った。その時点で、私の不安はなくなりました。だから、つまり……血縁だろうが、そうでなかろうが、私にとって、有希を失うこと以上に恐ろしいことは、ないのです」  顔を少しだけあげて、首筋へキスをする。  ちゅ、と音をたてて吸いつく。何度も、何度も。子どもが母親の気を引くように、構ってほしいと、甘えているのだ。  有希は、当然のように慎一郎の頭に手を回して抱きしめる。押しつけられた肩口が嬉しくて、目を眇めた。  有希の香りに包まれている瞬間、慎一郎は幸福に満たされる。 「家族と、血の繋がりがなかったんですよ。片瀬さんは、ショックじゃないんですか」 「もともと、関係は希薄でしたから。先ほども言ったように、あなたがいてくだされば、十分なんです」 「私はっ、私は……ショックでした。パパは、娘である私を愛してくれたけど、娘じゃなかった私は、愛してくれなかった、から」 「どんな有希でも、有希に変わりありません。私は、今のあなたを愛しています。これから、もっと沢山の、あなたを見せてください」  有希が、慎一郎から身体を離した。  離れていくぬくもりに寂しさを覚えた瞬間、有希のほうから、キスをした。驚いた慎一郎の頭を抱えて、深く、舌を差し込んでくる。  どこかたどたどしいながらも、貪るような、必死なキスを、慎一郎はされるままに受け入れた。  ややのち、荒い息を吐きながら顔をあげた有希は、先ほどより顔を赤くしていた。肩で息をして、唾液で唇をぬらぬらと光らせて、ぺろりと舌を舐める。そんな姿を、慎一郎は布団に寝転がった状態で、覆いかぶさった有希を見上げているのだ。 (……欲しい)  昨夜は、混乱もあって、有希を抱きしめてそのまま眠ってしまった。本当は、先週あまり肌を合わせることが出来なかった分、愛し合おうと思っていたのに。  下腹部が、痛いほど膨らんでいる。  今すぐに有希を抱きたい。  有希の服のなかに手を差し入れて、乳房の丸みを確かめるように撫でた。けれど、有希が身体を離したので、手も離れてしまう。  有希、と乞うように呼ぶと、有希は自分で服を脱いで下着だけになり、また、覆いかぶさってきた。  慎一郎の首筋に吸いつくと、慎一郎のシャツをめくりあげて、腹部を撫でた。有希の柔らかくて温かい手に、やわやわと撫でられると、酷く背徳的な気持ちになってしまう。  ただ、腹部や横腹を、撫でられているだけなのに。 「有希、私が」 「……させてください。私にも。いつも、慎一郎さんが、してくださること」 「――っ!」  息を呑む。 (今、名前をっ)  有希は微笑んで、慎一郎のシャツを首元までめくると、柔らかい舌で臍の周辺から臍を辿り、胸の突起まで、ゆっくりと焦らすように、舌と唇で愛撫した。  突起にたどりつくと、唇ではんでから、手の指のはらで転がすように摘まんだ。 「あっ……有希っ」 「ここ、いつも触ってくれて、気持ちいいなって思ってて。慎一郎さんにも、気持ちよくなって、貰いたいんです」  そんなもの、いつだって気持ちよくなっている。けれど、それを言う前に、有希はきゅっと指で突起をつまむと、こねるように刺激を与えてきた。 「っ!」  こんなふうに触れられたことなどなかったし、想像したこともない。完全に想定外のことが起きているのに、慎一郎はあらがうこともせずに、有希のしたいままに任せた。  胸の硬くなった突起を有希の手のなかで刺激されるたび、甘い快感が全身に走る。 「……こっちも」  有希は呟くなり、反対の突起を舐めた。そのまま、舌で絡み取るように口のなかへ含んでから、強く吸い上げる。 「あっ」  慎一郎は、身体を震わせて、ぐっと歯を食いしばる。 (まずい)  そっと有希の頭に手を置いた。 「有希、もう」 「もう?」  顔をあげた有希が、可愛らしく首を傾げる。可愛いのに、真っ赤な頬で瞳をうるませる有希は、間違いなく女の顔をしていた。  自分が、こんな顔をさせているのだ。そんな考えに思い至り、慎一郎はまた歯を噛みしめる。  初めて肌を合わせてから、何度も共に夜を過ごしてきた。不慣れだった慎一郎も、それなりに、事におよぶことが出来るようになってきたのに。 「有希、すみません。余裕が、ないので」 「あっ。はい、そうですね」  微笑んだ有希にほっとしたのもつかの間。  有希は、そっと身を離すと手早く自分の下着を脱いで、慎一郎の下腹部に顔を近づけた。 「有希⁉」  ズボンを押し上げて存在を強調しているそれに、有希がキスをした。 「っ」  恥ずかしいほどに、押し上げているズボンの先が、先走りで濡れて変色しているのが見えた。そこに、ちろ、と赤い舌を這わせた有希は、両手で優しく、慎一郎のズボンをずらしていく。 「まっ」  待って、と言い終える前に、昂った自身がぶるんと飛び出して、外気に触れた。限界寸前のそこは、びくんびくんと動き、先端からこぼれた体液でいやらしく光っている。  慎一郎は半身を起こして、有希の肩を押す。 「あまり見ないでください、恥ずかしいですから」 「慎一郎さん、いつも見てくるじゃないですか。それに、してるときの慎一郎さん、すごく、えっちなことも……言うし」 「す、すみません」  思ったままを口にしているだけだが、それが卑猥なことである自覚はある。 「有希が嫌なら、もう……いえ、なるべく……」 「嫌じゃないです。ちょっと、その恥ずかしいですけど。いつだって、すごく気持ちよくしてもらってるから……私も」  有希、と名前を呼ぶのと同時に。  有希は、昂って反り返っている怒張に、キスをした。驚いた慎一郎は咄嗟に有希の頭を押すが、柔らかい舌でカリから裏筋部分を辿るように舐められると、手から力が抜けた。 「有希、そんなこと、しなくてもっ」 「嫌ですか?」  有希は、両手で反り返った怒張を優しく包み込むと、柔らかい舌で裏筋を刺激する。先端からこぼれた体液を指ですくって、カリの周りに塗り込むように指先でこすると、付け根部分を舐めていた舌があがってきて、先端を咥えた。 「――っ」  声にならない声が漏れて、ぐっと腹に力を入れる。 「口に、射精してください」  そう言うなり、深くまで咥えた有希は、ちゅうと強く吸い上げた。 「ひっ、あぁっ」  有希の柔らかく温かい口のなかで、昂って張り詰めていた怒張がはぜた。びゅくびゅくと繰り返し射精してしまうのは、今週あまりしていなかったことと、有希の口のなかが気持ち良すぎたためだ。  途中で有希が顔を離したため、有希の頬へもかけてしまう。  可愛いぷるんとした唇の端から、白濁が、つつ、とこぼれるのを見てしまい、羞恥と情けなさから、右手で自分の口を押えた。 「すみません、早く、吐き出してください」 「……っ、の、飲みましたっ」 「なっ」  有希は、口の端に伝った白濁を舌で舐めとり、頬についたものは指でぬぐって、口のなかへいれた。ごくん、と喉が動くのを見てしまう。  どうしようもなくなる、とは、こういうときを言うのだろう。  慎一郎は、有希の赤く色づいた乳房の先端を指先で摘まんだ。可愛く声をあげた有希の肩に手を置いて腰をさらい、そのまま布団へ押し倒す。 「しんいちろ、さっ」 「あなたが可愛いから、いけないんですよ」  有希の両足を抱えて、慎一郎の肩に乗せると丸見えの秘部へ顔を近づけた。すっかり潤んで赤く熟したそこへ、舌を這わせる。愛液を絡め取りながら、吸いついた。じゅるじゅると音をたてて、溢れてくる愛液を飲む。 「ひっ、ああっ」 「ここ、私のを咥えて、こんなにしたんですか?」 「っ……はいっ」 「すごい、ここもこんなに膨らんでます」  ぷっくりと腫れた女芽を指で軽く押して、摘まんだあと。舌の先で突いて、感触を確かめながら舐める。 「あっ、ふっ」  必死に声を我慢する有希を上目で見ながら、女芽へ強く吸いついた。 「あっ、っ!」  有希は身体を震わせて、どぷりと愛液をあふれさせた。真っ赤な顔で恥ずかしそうに涙目になっている有希の姿を、うっとりと見つめる。 「イッたんですね。可愛い、有希」  ひくひく痙攣する真っ赤な秘部をうっとりと眺めた。  もっと舐めて可愛がってやりたいが、慎一郎の下腹部もまた、大きく膨らんで反り返っている。ついさっき沢山射精したばかりなのに、まだ、足りない。早く有希の奥へ入って、彼女のナカを感じたい。  身体の位置を入れ替えて、手早く避妊具をつけたあと。  有希の秘部へ怒張を宛がった。  ぼうっとしていた有希が、はっと慎一郎を見る。 「もう入りたいんですが」  先端を少し沈めて、ぬるり、とこすりつけるように抜く。このまま深くまで入ってしまいたいけれど、まだ、有希がいいと言っていない。 「有希。早く……いいって、許可をください」  有希の手が、有希の足を押さえていた慎一郎の手に重ねられた。顔をあげると、有希は優しく微笑んでいる。 「きてください。奥まで、慎一郎さんを感じたいです」  腰を一気に沈めた。  有希の身体が跳ねて、待って、という、か細い声が聞こえる。有希のナカは慎一郎の塊を締め付けて、信じられない気持ち良さをくれた。この心地は、中毒になる。何度も何度も有希のなかへ腰を打ちつけた。 「すみません、待て、ない」  腰が止まらない。  有希のナカが、もっと深くへ入るようにと収縮して、慎一郎を煽ってくる。 「あっ、声、でちゃ」 「有希っ、すごい……有希っ、気持ちいいですっ、ナカっ」  有希、有希。  何度も名前を呼んで、本能のままに、有希のナカで果てた。  ◇ 「どうぞ」  放心状態だった有希は、お茶が入ったコップを差し出されて我に返った。コップを受け取って、中身を飲み干した有希は、大きく息をつく。 (ああ……そうだ。血の繋がりについて、話を、してて)  慎一郎は、有希が何より大事だと言った。嬉しくて、そして、肌を合わせて、愛を確かめ合って。 (私も、慎一郎さんがいてくれれば、それだけで、満たされる)  色々とあったけれど、過去は過去だ。  過去が変えられないように、血の繋がりも変えられない。ならば、受け入れて、今を生きていくだけだ。  慎一郎は、そのことをよく理解しているのだろう。  有希は、隣でゆったりと横になっている慎一郎を見た。はた、と目が合うと微笑まれて、なんとなく気恥ずかしさから視線を逸らしてしまう。 「……なんですか、そんな可愛い顔しても止めませんよ」 「えっ、まだやるんですか?」 「えっ、てなんですか。しますよ」  拗ねたように言われて、はい、としおらしく頷いた。  慎一郎は四十を過ぎているはずだが、その精力はどこからくるのだろう。長い間禁欲生活をしてきたため、遅咲きの思春期を迎えているのだろうか。 「有希。……さっきの話なんですが」  ふと。  慎一郎の真面目な声音に、有希も真剣な表情で振り向いた。 「私が、母や弟と血が繋がっていないのなら……母は、そんな私を、育ててくれたことになります。手料理など作ってくれたこともないし、会話らしい会話もしたことがありません。それでも、生きていけるだけの衣食住を用意してくれました」 「……慎一郎さん」  過去をぼうっと見ていた慎一郎の瞳が、真っ直ぐに、有希を見る。 「少しだけ、興味がわきました。近々、会いにいこうかと……思います。有希も、その、よければ……ついてきてくれませんか?」 「はい、ぜひ!」  有希の笑みにつられるように、慎一郎も笑う。 「ありがとうございます。本当に……本当に、あなたに会えてよかった」  大きな手が背中に回されたと思った瞬間、胸板に顔を押しつけていた。慎一郎の背中に手を回して、彼のぬくもりを全身で感じる。 「……私もです。とても、幸せ」  うっとりと呟いた。  しばらくして、慎一郎の手が有希の身体をまさぐりはじる。心地よい波のなかに、有希の意識は、飲み込まれていった。
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