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本社のエレベーターって4基もあるのにこんなにも開かない───────。
ぬー。
ポーン。
やっと開いたエレベーターに足を踏み入れる。そこには既に若い男性がいた。
その先客は目を細め、冷めた視線で私を見下ろした。
「ねえ、キミ。このエレベーター、役員専用なんだけど」
「へ?」
年の頃は20代半ば、背は高め、肌触りの良さそうな濃紺のスリーピース。黒髪のマッシュのツーブロック、肌は陶器のように白く滑らかで。
……モデルみたいだ。
「キミ役員なの?」
「ち、違います!」
役員専用だなんて知らなかった。
ギロリとにらまれて萎縮する。
そそくさと降りようとすると突然、二の腕をつかまれた。
「なにするんで……」
顎をくいとあげ、降りるな、と言わんはかりだ。軽くパニックを起こしているうちに扉は閉じ、エレベーターはゆっくりと加速度をつけた。
「は、離していただけませんか」
「ちょっとつきあって」
「どうして」
「一般社員なのに役員専用エレベーターを使用した罰」
「本社ってそんな罰則あるんですか?」
「知らないの?」
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