5人が本棚に入れています
本棚に追加
「むむむ……これは、事件だね」
「ねえ、何なのその恰好」
ことの顛末を語り終わった映理が、訝し気な視線を作楽へ向ける。
いつの間にか地面に胡坐をかくようにして座り、手のひらを上に向けて両ひざの上にそれぞれ置くという、所謂ヨガの基本姿勢のようなポーズをとって作楽はうんうん唸っていた。
「知らない? これやると頭が良くなるの」
「知らない。少なくとも今のあんたはかなり馬鹿っぽいわ」
「まっ!!」
作楽は座ったままその目と口をおっぴろげた。突然目の前の少女から浴びせられた暴言が、あまりに信じ難く衝撃的だったためだ。
「エリリン! 世の中には思っていなくても言っちゃいけないことがあるんだよ!」
「思ってるから言ったのよ。さりげに自己評価高いわね」
「じゃあ思っちゃダメ!!」
「憲法違反よ!!」
言い争いは尽きない。
映理の心の中には、引っ越してきてからというものの……もっと言えば、古くは物心のついたころから、自分の気持ちを抑え込んで利口にふるまうということを覚えて以来の鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
なぜ今になってそれが発露したのか。
それはきっと、彼女の身に降りかかった理不尽な出来事がきっかけであり、そこに丁度よく表れた不躾な少女が映理にとって手頃なサンドバックになったということに他ならない。
もちろんサンドバックにされた方は溜まったものではない。それこそ、それは理不尽な、身に降りかかった火の粉でしかない。
だが、降りかかってきた火の熱さと明るさを面白がって、真正面からぶつかっていく種類の人間も世の中には存在しているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!