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不毛な口喧嘩に息を切らしながら、作楽はさもおかしそうに笑みを作った。
「いいのかなあ、私にそんな口聞いちゃって。謎を解決したくはないのかい?」
「はあ? ……あんた、まさか」
「ふっふっふー……」
ゆっくりと立ち上がり、背中を向けた桜の肩が上下する。「背中で語る」とはよく言ったものだが、自信に満ち溢れたその後ろ姿は、映理の心に希望の光を灯すには十分なほど頼りがいがあるように見えた。
そのまま店の奥の方へと歩き出した作楽を追いかけながら、映理は期待に胸を膨らませて問いかけた。
「分かったの!? 私のコンパスが隠された場所が!!」
「いんや、全然」
映理はひざから崩れ落ちた。
こちらを振り向いた桜の表情は何の感情も含んでいない荒涼たるもので、つい先ほど
まで匂わせていた全能感が全くの皆無だった。
そのあまりの落差に、地上一階において転落死しかけた映理だったが、すぐさま地面を蹴って眼前の詐欺師へと詰め寄った。
「態度が紛らわしい!! ……何それ」
「話を聞いてたら思い出したんだよ。何かのヒントになるかと思って」
映理の関心はすぐに、振り返った作楽が手に持っていた物へと移り変わった。
期待を裏切られた憤りに身を打ち震わせていた映理が、あっという間に視線を奪われてしまった。それほどまでに、その四角い物体に彩られた複雑な紋様は美しかった。
木製であるが故の年季は感じさせても、古臭さのようなものは感じられない。不思議な雰囲気を漂わせる箱だった。
「これはね、からくり箱だよ」
「からくり箱?」
聞いたことあるような無いような、絶妙なワードの組み合わせの名称に、映理は復唱しつつ首を傾けたのだった。
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