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短気で直情的。思ったことをすぐ口にしたり、人にちょっかいを出したり、忘れ物をすることも多い。かといって社交的という感じでもなく、映理には今日まで、正直まとも関わった思い出が一つもない。
だからこその「何で?」だった。そこには実に様々な意趣がちりばめられているが、相手がそれに気づくことはない。
「ちょっとコンパスでやりたいことがあるんだよ」
「先生に頼めば? 私貸したらテストのとき困るし」
「テストまでには返すから!」
大きな声を上げ、男子は映理に詰め寄ってきた。映理より若干大柄な体がすぐ目の前までやってきて凄まれると、映理の中で恐怖心が膨らみ、速く鼓動を打ち始める。
クラスから好奇の視線を向けられていたのもあり、映理はもう我慢の限界だった。
男子から体を逸らし、筆箱からコンパスを取り出し、しぶしぶと机上に置く。
「……テストまでには、絶対返してよ」
「返すって! サンキュー」
男子生徒は乱暴にコンパスを手に取ると、自分の机に戻り自由帳に何やら模様を描き始めた。
映理はトイレに行くふりをしてその場を離れた。未だうるさいくらいに鳴る鼓動を必死に沈めながら、クラスを見渡す。
すでにほとんどの生徒は自分から興味を失っており、それぞれの友達とのやり取りに夢中になっていた。
映理にとってこのクラスは、まだやってきて一ヶ月程度の他人でしかない。映理自身積極的に周りと関わろうとしたわけでもなく、ともあれ別にクラスの人たちに無視されているわけでもない。
それでも、自分に労いの一言をかけてくれる人すら一人もいない現在の自分の状況に、映理が内心うんざりしてしまうのも仕方のない話と言えた。
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