第一章:消えたコンパス②

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授業終わりのチャイムが鳴り響く。午後の授業が終わり、下校の時間がやってきた。 テストが回収されていくと、クレスメイトたちは皆帰りの準備を進めながら「今日誰の家行く?」やら「今日塾あるの?」だの放課後の予定について話なんかをして、実に開放的な表情を浮かべていた。 そんな中、『ガタンッ』と大きな音を立てていきなり立ち上がった少女の怒り狂った顔つきに、初めクラスのほとんどは気が付かなかった。 しかし、彼女がドカドカと音を立て一人の男子生徒の席の前に立ち、既に準備を終えていたその男子生徒のランドセルを「バン!」と叩いたことにより、クラスの注目は次第にその少女へと集まっていったのだ。 「さっさと返しなさいよ! 私のコンパス!!」 映理が言い放った一言に、クラスの大半の生徒は「ああ……」とそのおおよその事情を察することとなった。皆、映理がその男子に半ば脅迫的にコンパスを貸し出すことになっていたのを見ていたからだ。 大方あの粗暴な男子は、テスト前になっても映理にコンパスを返すことを忘れていたのだろう。彼女がそこまで怒っているということは、ひょっとしてその男子は、映理のコンパスをずうずうしくもテストに使用していたのかもしれない。 ……さらにこれはクラスの生徒達も窺い知ることのない事実だが、映理はあまりの悔しさから救済策のコンパスを使用するため教師に名乗り出ることもできずに、結局コンパスが必要な問題を丸々棒に振ることとなったのである。 映理の怒りは激しく、コンパスを返してもらうだけでは到底足りなかった。公衆の前で謝罪させ、その非を全員の前に晒させることでせめてもの留飲を下げようという目論見が無意識に働き、映理にここまで衆目を集めさせるような行動をとらせたのかもしれない。 だが、座った姿勢のまま眉をしかめた男子が次に言い放った一言により、事態は急展開を迎えることになる。
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