異世界

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異世界

 リュウジさんのグループの男が動転した様子で僕を起こした。明らかに様子がおかしかった。外は騒がしく大惨事でもあったかのようだった。慌てて洞穴から出てみた景色はあまりにも想像を絶していた。夢でも見ているのか?何度も目を疑った。  昨日あった青い空や海はなく、空は暗い赤茶色の土か石に囲まれていた。そこからは所々から赤い光が光り地上を照らしている。周りにあった森も一切ない。あたり一面濃いベージュ色の岩で囲まれている。地面も土や岩で、植物らしきものが少しだけ生えているだけ。一面土と岩の茶色の世界。太陽の光はなく地上ではない、地底の世界のようだ。鈍い何かがこすれる音、何かが爆発して吹き出るような音が遠くから薄っすらと聞こえる。何かの工事現場があるかのようだ。  何やら黒く丸い、熊蜂のような形をした生き物が飛んでいる。いや浮遊しているといったほうが正しい。それには羽がなく、その姿は水の中をゆったりと泳いでいるように見える。熊蜂よりも少し大きく感じる。手のような物がついていて、片手には銀色の針のようなものを持っている。少しするとそれはこちらに気がついたようで、しばらくこちらの様子を伺っていた。  昨日いたメンバーのうち、ヨシアキと他数人が居なかった。聞くと、朝起きたらすでに数名居なかったらしい。もちろん、昨日逃げたユウシさんの姿もなかった。今ここにいるのは7名。  その熊蜂のような何かは、僕たちを中心に円を書くように飛び、物色している様子だった。  と、突然、一匹がリュウジさんに向かって突進し、首元に針を指した。リュウジさんは「いてっ」と言うとともに力を失い、膝から崩れその場にうつ伏せで倒れ込んだ。他のそれらも一斉に僕たちに襲ってきた。洞穴の方へ逃げようとするも、小さく素早いそれを払いのける事ができず、首元あたりを針で刺さた。瞬間、全身にしびれを感じるとともに朦朧とし意識を失った。  気がつくと、仰向けに寝ていた。さっきとは別の場所のようだった。一人。一緒にいた同士達は誰もいない。目の前にさっきの生き物がふわふわ飛んでいる。  なにかの洞窟の中か。薄暗く周りがよく見えない。何かが擦れ合うような轟音が鳴り響き、洞窟内に反響する。全体が震えているようだ。気が狂いそうになる。  その生き物が耳元に飛んでくる。手で払おうとするが素早く触れることができない。また刺される。体を屈め身を守ろうとした。  「オレガ、オマエノ、カカリダ。」  ロボットのような機械の声に近い声だった。しゃべるのか?周りの雑音が邪魔し、一瞬何を言っているかわからなかったが、係と言ったのか?  「1815バン、シゴトダ。」  なんだって?よくわからなかった。呆然としていると、それは針で尻や腕をチクチク刺してきた。しびれるような痛みを感じる。四つん這いになりながら避けるように動くと、目の前に何やら動いているものがあった。水平に設置された巨大な木製の歯車のようなものが水平にゆっくりと音を立てて回っている。中心には円柱の巨木が立っており、歯車と一緒に回っている。歯車の歯は1mほどの高さで、地面から少し浮いている。それぞれの歯を数人の男たちが両手で押している。  生き物はまたチクチクと針で刺そうとしてくる。あれをやれというのか。  仕方なく歯車の方へ行く。長髪と白い髭を蓄えた初老の男が押している歯に入り、その男の真似をして押し始めた。しばらく、その生き物が僕の周りを飛びながら様子を見ている。髭の男も黙って壁を押すようにひたすら両手で押している。しばらくすると、その生き物は「イイゾ」と言い、遠くへと去っていった。  一つの歯の広さは5人ほど入れる程度だ。この歯には髭の男と僕だけがいる。髭の男はひたすら押している。生気が感じられない。  「すみません・・・」  意を決して話しかける。しかし反応がない。  「すみません。あの・・・、これは一体何ですか?」  ボサボサの長髪と荒れた黒い肌の隙間から、小さい眼球がこちらに向く。  「こっちを向くな。静かにしろ。」  ガラガラの濁声でそう言うとまたその眼球は前を向く。話は通じた。しかし話しづらい。少しの間、無言の時間が続く。  「これは何ですか?」  男の白い眼球がギョロギョロと動く。  「静かに話せ。見つかると拷問にあう。」  見の危険を感じ、一旦黙り、目の前の汚れた壁を押すのに集中する。たまに横をチラ見すると、髭の男の眼球がぎょろぎょろしているのが見える。  少しすると、髭の男が小声で話してきた。  「お前、新入りか?」  「は、はい・・。」  男は話すたびに間がある。辺りをずっと警戒しているようだ。  「発電だ。天井が光ってただろ。」  「発電?」  「これが止まると、ここは真っ暗だ。」  明かりのための電気を発電しているということか?  「先程言ってました拷問って?」  「サボっているのをスィーに見つかると酷い拷問に合う。」  「スィー?」  「さっきの黒い奴だ。」  あの生き物か?  男が目でこれ以上話しかけるなと威嚇してきた気がした。それからまたしばらく無言の時間が続いた。  ずっとこの状態が続いた。定期的にスィーと呼ばれる生き物が数匹で、僕たちを見回りに来た。緊張が走る。  スィーが居なくなった時を見計らい、再度問いかけてみた。  「すみません。ここは一体?」  「知らねえよ。多分地獄だ。」
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