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「いや、あの……大学で、アメリカから来た留学生と親しくなったんだ。母国ではトレイの上では飲食しないんだって。トレイというのは運ぶときだけのものだそうで、トレイの上では飲んだり食べたりしないそうだ」 「へえ、知らなかった。さすが東京帰りね。でも、中にはトレイの上で飲食する人もいるんじゃないんですか?」  野々村の口調は、少し早口で、あの頃と同じ澄んだ声だった。 「うん、そう、そうだな、8%いる」  緊張していた俺は口からでまかせを言った。 「じゃあ、私はその8%のうちの一人ですね、先輩は92%……」  それにしても、六年ぶりに会ったというのに俺たちはなんて他愛ない話をしているんだろう。  それぞれの近況について尋ね合ったりとか、お互いの仕事の話とか、結婚をしているのかとか、なぜそういうまともな話ができないんだろう。  でも、くだらない話でも話題をひとつ稼げたと思った。彼女は興味深そうに聞いていたのだから。退屈させてはいけない。 「あの、気にさわったらトレイ、もとに戻すけど」  彼女は首を振った。 「……そのアメリカ人の留学生って、女性なんでしょう?」
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