エピローグ #堂道のバージンロード

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 冬至は空気。  普通の弟っていうのとも少し違うと思う。姉に感じる『姉』の距離感と冬至との間にある距離感は違うし、友達でもライバルでもない。 『片割れ』というのがぴったりくる。  オカルトやスピリチュアルな類は一切信じていない俺だが、双子の精神的なつながりというのは同意せざるを得ないところがあって、冬至はたまに怖いことを言う。俺の心理状態を言い当てたりするのもそうだ。  普段、用がないと連絡を取らない俺らだが、今朝冬至からメッセージが届いていた。 『夏至の息子が堂道医院を継ぐ夢みた』  勝手な夢を勝手に見んな、と返しておいた。  もし子どもができたとして、将来はその子自身が自分で好きに決めればいい。  結婚を前に、まさかの部長に昇進した。  おかげで「ご祝儀人事」と言われているらしいが、我が社はそんな人情味のある社風ではない。  俺自身もまさかだが、周りの方がもっとまさかだろう。こんな俺が。 「パワハラ防止のロールモデルになるように」ってまさに適任なのか限りなくミスチョイスなのか。そもそも元部長の健康上の理由でいわば繰り上げ昇格のようなものなので大手を振って部長席に座ることもできない。  引き継ぎは慌ただしく、会議も増える。結婚式のこと、新居の契約、とにかく忙しい日が続いた。  糸とは時間のすれ違いが多くなり、常にタスクは山積みで心身ともに疲労は蓄積、小さな諍いも増えた。  昇進も引っ越しも、感慨深いはずの入籍も、結局はやっつけ仕事のようなテンションで処理され、糸の表情も常に浮かない。 『マリッジブルー』と結婚前の女性の精神状態を表す市民権を得た言葉があるのだから、糸もおそらくそうなのだろうとそれを安心材料にするよりなかった。  せめて、どんなに疲れていても、どんなに険悪でも、夜は俺が折れるようにした。一番手っ取り早く、確実な仲直りの方法だ。  何もしないときもあるが、するときの方が圧倒的に多かった。  ふと、最近「できない時期」がないことに気づいたのは、たまたま三ヶ月前の業務日報を見ていた時だった。  結婚が決まっていたので確かに気の緩みはあった。それでも以前ほど神経質にはなっていなかったが必ず避妊はしていたし、いつできてもいいという状態で臨んだこともない。順番が反対になることは絶対に避けたかったから、糸の誘惑に乗ることもしなかった。
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