結婚まで0日 #今日、結婚する夏至

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結婚まで0日 #今日、結婚する夏至

 さて、どこから振りかえればいいだろう。  バツイチ、アラフォー、パワハラ上司で嫌われ者の男が、一回り以上も下の部下に手を出した話。 送別会の夜に。 『忘れ物をして』 トイレの前で。 『合コンしたいです!』 初めて二人で飲んで。 『諦めません。私、堂道課長と仲良くなりたいんです』 俺が好きなのかと問いただせば。 『……はい』 袖にしても。 『……誰でもいいわけじゃないんです』  本当に、手を出すつもりはなかった。  再婚だって、絶対にしないつもりだった。  それが、こんな日を迎えんだから人生わかんねぇ。 『私でしたら、怒鳴られても耐えられると思います!』 『それがなんとなく気になって、それから課長のこと見てました』 『心配になるくらいにはまだ好きです』 『どちらかというと、逆効果でしたよ。余計に好きになりましたから』  糸との出会いは、宝くじに当たったとか、人生のご褒美なんかじゃない。  ボーナスを前借りしたようなもんだと思っている。  俺の残りの一生をかけて大事にして、糸をもらい受けたことの感謝を全力で返していく人生だ。  ベールの薄布越し、少し顔を伏せる糸は、嘘みたいにかわいいかった。  本当に、嘘みたいな。  その腹には子供もいる。  一歩、一歩と近づいて来る。  想像もしなかった。  事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。  感動よりも、にわかにおかしくなってつい笑いが込み上げてきた。  ホント、お前は変わりモンだけど、そのおかげで。   「やべぇ、幸せだわ、俺」  笑って、怒って、流す涙は俺が拭って、糸の人生が、いつも喜びと幸せで満たされるものであることを、祈りながら。  並んで歩いてきたお義父さんから一歩踏み出した糸の左手を受け取った。  終 YouTubeで「1000日後に結婚する夏至」で検索すると、素敵な動画が御覧になれます
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