結婚まで930日 #堂道と心眼

2/3
前へ
/103ページ
次へ
「合コンん時、お前、何言ったんだよ」  草太を睨むと、ぶんぶんを顔を横に振る。 「何も言ってないよ! 堂道医院のことも言ってない。あ、トージさんには触れたかも。でもドクターだってことは言ってないよ」  実家が医者だと言えば、玉の輿に乗れると思うヤツは一定数いる。それが目的で近づかれたことも過去にあったから、そこに触れられるのが好きじゃないことを草太は知っていて、汲んでくれたのだろう。いいやつ。  しかし、そうでないならば、逆に。 「なんで俺なんだよ。俺のどこがいいんだよ」 「知らないよ。糸ちゃんに聞きなよ。同じ会社なら、ゲシさんの仕事ぶり見てとか、そういうのじゃないの?」 「……むしろ、会社だからこそ、ないと言い切れる」 「糸ちゃん、ドM説」 「俺だって、別にドSじゃねえし」  カウンターの向こうに酒を注文。  ここのマスター、寡黙だし、男前だし、いいな。 「とにかく知らないけどさ、別に俺は不思議じゃないよ。ゲシさん、普通にモテるじゃん? 本気で探せばすぐにみつかるじゃん? 前の結婚で懲りたの? それともハートブレイク継続中なの? 外須(げす)さんのこと、まだ好きなの?」 「んな女々しいわけあるか。元嫁のことなんか、今、名前聞いて、数年ぶりに思い出したくらいだわ」 「元気なの?」 「知らね。元気らしいけど」  元嫁の事は、風の噂(というか加古と牟樫経由だが)で耳にはする。  が、何の感傷もない。多少、ムカつくくらいで。 「また男女関係イチから構築とか考えると、めんどくせえんだよ」 「それが恋愛の醍醐味なんですけど」 「今の生活がラクすぎて、んな元気ねえわ。別に、このまま生きて死んでいけたら悔いはない」 「気力の低下は四十代男性に多く見られる更年期障害ですね」 「それそれ」 「ホルモン注射すればいいよ。出るよ、やる気」 「別に俺はヤル気なくて悩んでねえから」
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4378人が本棚に入れています
本棚に追加