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「合コンん時、お前、何言ったんだよ」
草太を睨むと、ぶんぶんを顔を横に振る。
「何も言ってないよ! 堂道医院のことも言ってない。あ、トージさんには触れたかも。でもドクターだってことは言ってないよ」
実家が医者だと言えば、玉の輿に乗れると思うヤツは一定数いる。それが目的で近づかれたことも過去にあったから、そこに触れられるのが好きじゃないことを草太は知っていて、汲んでくれたのだろう。いいやつ。
しかし、そうでないならば、逆に。
「なんで俺なんだよ。俺のどこがいいんだよ」
「知らないよ。糸ちゃんに聞きなよ。同じ会社なら、ゲシさんの仕事ぶり見てとか、そういうのじゃないの?」
「……むしろ、会社だからこそ、ないと言い切れる」
「糸ちゃん、ドM説」
「俺だって、別にドSじゃねえし」
カウンターの向こうに酒を注文。
ここのマスター、寡黙だし、男前だし、いいな。
「とにかく知らないけどさ、別に俺は不思議じゃないよ。ゲシさん、普通にモテるじゃん? 本気で探せばすぐにみつかるじゃん? 前の結婚で懲りたの? それともハートブレイク継続中なの? 外須さんのこと、まだ好きなの?」
「んな女々しいわけあるか。元嫁のことなんか、今、名前聞いて、数年ぶりに思い出したくらいだわ」
「元気なの?」
「知らね。元気らしいけど」
元嫁の事は、風の噂(というか加古と牟樫経由だが)で耳にはする。
が、何の感傷もない。多少、ムカつくくらいで。
「また男女関係イチから構築とか考えると、めんどくせえんだよ」
「それが恋愛の醍醐味なんですけど」
「今の生活がラクすぎて、んな元気ねえわ。別に、このまま生きて死んでいけたら悔いはない」
「気力の低下は四十代男性に多く見られる更年期障害ですね」
「それそれ」
「ホルモン注射すればいいよ。出るよ、やる気」
「別に俺はヤル気なくて悩んでねえから」
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