1000日後に結婚する夏至

929日後に結婚する夏至

　夜の電車は、全員が座れるくらいの混み具合で、ガタンゴトンと車体がレールを通過していく音を、数えるように聴く。

　酔ってはいないが、頭はあまり働いていない。

　電車が川を渡って、ごうごうと音が大きくなる。
　昔から鉄橋を通過する瞬間が好きだ。なぜかはわからない。

　ごめんな。
　ありがとう。

　嬉しかったよ。　
　楽しいと思ったよ。
　かわいいと思ったよ。

　たぶん、アンタのこと、このままいけば好きになってたよ。

　傷つけて、ごめんな。
　俺を見てくれて、ありがとう。

　臆病者の、オッサンです。　

　胸ポケットから取り出したスマホ。
　立ち上げたアプリ。

　何も届いてはいない。
　そりゃそうか。
　これからはもう届かない。

　また、日常にもどる。

　小さな川の鉄橋にさしかかる。
　また、音が変わる。好きな音に変わる。

＃929日後に結婚する夏至