結婚まで912日 #堂道とピンクのひざかけ

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結婚まで912日 #堂道とピンクのひざかけ

 一体全体、どうにもややこしいことになってる。  まさか、たまゆらサンと組んで仕事をやることになろうとは。  羽切のヤツ、変な気回しやがって!と思ったが、普通に親切の部類だろう。  たまゆらサンの気持ちを知るわけない。  ま、欲しかった助っ人は営業なんだけどな!  やりにくいのはお互い様。  仕事に私情は持ち込むべからず。  仕事第一、社会人の神髄見せてもらうぞ! 「って、え?」  身体を覆うピンク色のかわいい毛布。  なんだこれ、どういう状況なんだよ。  窓の外がすっかり夜景に変わった時刻。  不本意な居眠りから目覚めると、なにやら温かいもので包まれている身体。  とっさに顔を上げて見たのは少し先のデスク。  人が少なくなったフロアで、真剣に書類をめくっている。  現状を理解できないでいると、自分の机上に付箋の貼られた書類があった。 『ご確認ください。玉響』  これ、もしかして、いやもしかしなくても糸チャンのひざかけ?  ひざかけってばあちゃんかよ。確か、もう少し女子的な名称があるはずだが。  俺にピンクとか不似合いすぎるし、キモすぎんだろ!  慌てて剥ぎ取るとぶるっと身体が震える。 「さむ……」  椅子に掛けていた背広を着て、ピンクのひざかけを簡単に畳んで、フロアの通路を進んだ。   「これ、玉響さんの?」 「あ、課長お目覚めですか。すみません、余計なことを」 「……いや、サンキュ。まだ残業?」 「はい。キリのいいとこまでやっちゃおうかなと」  正直、ありがたいよ、君の頑張り。 「スタバ、行くけど。なんかいるか?」 「それなら、私、買ってきます」と立ち上がるたまゆらサン。 「いや、いいって」 「行きますよ!」 「いいから、俺行くし。行きたいし!」  小学生みたいな言い訳になっちまってちょっとハズい。 「……だったら、一緒に買いに行きます?」 「……行きません」  なんか、掌で転がされた感。不服だ。 「……これで好きなの買え。食いモンも買っていいから。腹減ってるだろ」 「ありがとうございます。お腹減ってます! あ、課長、アーモンドラテですよね?」 「……ああ、うん」 「じゃ、ちょっと出てきますね」  俺も腹減った。  けど、コジャレたコーヒー屋に腹の膨れるモンは売ってない。 「……メシくらいは、一緒に行ってもいいのかねぇ」  人の少なくなったフロアで、たまゆらサンの帰りを待った。 #結婚まであと912日  
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