4377人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
結婚まで893日(おまけ)禁煙、再び
「夏至君、私、煙草ヤダ」
昔、付き合っていた女に言われたことがある。
健康志向の女性で、肺が、発ガン性物質がと散々脅され、副流煙がむしろ相手の健康を脅かすと言われればさすがに吸い続けるわけにはいかず、俺は素直に禁煙した。
が、別れて、また吸いだした。
次に彼女ができた時「煙草って嫌?」と聞いたら、「臭くて嫌」と言われたので、やっぱりやめた。
格好つけて吸い出したわけではなかったが、モテ要素の一つだとの認識を持っていた俺は、現実との乖離に驚いたものだ。
元妻は喫煙自体に文句は言わなかったが、結婚する段になって、部屋が汚れるから嫌だと言い出した。そして、俺の健康にもよくないし、長生きしてほしいからと妻になる人から言われては、やめるほかなかった。
離婚して、手慰みにまた吸い始めたが、すぐ別れたものの一人だけ付き合った女性がいて、そのときもまた、なんとなく吸わなくなった。
そんなこんなでいつしか大事にしなければならない女性がいるときには煙草をやめるのが癖のようになってしまっていた。
そしてまた、辞める時が来た。もう煙草は一生の相棒で、禁煙する機会はないと思っていたのに。
この儀式は「彼女を大切にする」ためのものであったが、もはや願掛けにも似ていた。
彼女が『彼女』でいる間のタブー。
「え? まだ残ってませんでした?」
バイバイ、相棒。また会う日まで。
彼女が『彼女』でいてくれるその日まで。
最初のコメントを投稿しよう!