結婚まで865日 #堂道と結婚式

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結婚まで865日 #堂道と結婚式

 実家に帰ったのはやぶへびだった。  父の名代として、急遽の結婚式に出るはめになった。  たまたま帰省したタイミングが悪かった。母には渡りに船。  仕方なく頼むはずだったという冬至はこういう席には向かない性格で、営業職の俺は卒なくこなすし、くさっても長男。散々、文句をたれながらも結局、当日は白い円卓に座っていた。  母に、前知識をいれておいてくれるなどの機転はきかない。席次を見る限り、様々な遠い関係の招待客がまとめられたふうのテーブルは、まるで企業や各界のお偉方の会食の雰囲気だった。傍から見れば『どうでもいいオッサンたちのテーブル』といった感じだ。  互いに初見で、たいした素性もわからず、ただお上品に会話と食事を楽しむ。肩書を見ても、姿を見ても、年上ばかりだったが、はとこの配慮か、年齢が近そうな方を隣にしてくれていた。 「腹がまた出てきて、家内にビールを禁止されてしまって。今日、頂くのは久しぶりで」 「それは一日の楽しみがないですね」 「ジムも会費を払っているだけ。仕事終わりに行く元気なんてありません。運動と言ったら、犬の散歩。それも土日だけ。でも家内と歩くとダラダラして運動にならないし。それなのに、ランチだモーニングだって言って帰りに食べません?」 「女性はね、そういうのがないと」 「うちは息子が今年大学受験で、もうモノイリで……」 「ああ、それは大変ですねぇ」 「帰りは家内が迎えに。ホテルのティールームでお茶してもいいなら、娘もついて来るって言ってました。このトシになると娘にはATM扱いです。ああ、家内にもですけど。堂道さんのところはお子さんは?」 「私は独り身ですので、妻も子もおりませんから気楽なものです」 「ああ、そうなんですか。道理でお若く見えるはずだ」 「いえいえ」 「うらやましい。いいですねぇ、自由で」  わかってます。  俺の自由の代わりに、あなたがかけがえのないものを手に入れてること。
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