結婚まで865日 #堂道と結婚式

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 でっかくて持ちにくい紙袋を下げて家に帰ると、糸が来ていた。 「わー! 課長、結婚式って感じ!」 「……わかる。糸のいいたいことはよーくわかる。今どき結婚式ってこういう白のネクタイしねえもんな」  新郎の友人や新婦のはとこの会社関係のテーブルなんかの若い男は、みんなオシャレスーツにカラーネクタイだった。  バカな余興に身体張る側だったのは十年前の話。今や、元ネタもわからず、ほほえましく見てる側。 「ホテルですよね? お料理美味しかったですか?」 「普通のコース」 「引き出物何かなー」 「見ていいぞ」  ネクタイを引き抜く俺の隣で、糸が声を上げた。 「お花が入ってる!? お嫁さんのブーケ!?」 「それを、なんで俺がもらうんだよ。会場装花をバラしてさ、配ってたやつ」 「えー、そうなんだ、でもキレイ! 課長、知ってます? ブーケの意味」 「もらった人は次に結婚するってやつ?」 「そうです。だから「次は君だよ」って意味で課長からのプロポーズかと」 「……なんだそのキモプロポーズは。ねえよ。だいたいそんなその辺で摘んできたような花束。そりゃ、それにしちゃ豪華は豪華だけど、するなら薔薇100本とかだろ」 「古ーい!」  糸がコーヒーを淹れてくれた。引き菓子はホテルの焼き菓子だった。わりと古風な式だった。そりゃ名代立てて付き合いで出席しなきゃいけないくらいだから。 「新婦さん、綺麗でした?」 「ん? ああ、ドレスだった」 「そりゃそうでしょ! 写真見たいー」 「撮ってねえよ」 「えー! 信じられない!」 「見たいのか? 見ず知らずのやつの結婚式なんて」 「見たいですよー。今後の参考にも、普通に興味もあるし。幸せな気分になれれるし」  手慰みに口に入れたフィナンシェは、バターと砂糖がたっぷりすぎて奥歯が痛くなった。 「……お前も、いつか普通に結婚するだろうな」 「そうですねー。特にしない主義主張もありませんし、いつかはしたいです」 「そうだな。男と女が結婚して、子どもがいて。それが日本じゃ一番生きやすい」 「……なんか嫌な事あったんですか」 「べつに」 「好きな人じゃなきゃ結婚したくないですよ。結婚も子どもも、手段じゃなくて結果でありたいです……。極論ですが、逆に好きな人とずっと一緒にいられるなら、結婚も子どももいりませんよ」 「……ご立派だな。ん? ってこのメモ……なんだよ」 「あっ、それはー、課長と結婚して堂道の姓になったときの練習で……」 「暇かよ! 夫婦別姓が取りざたされてる時代だぞ」 「やだな、乙女の夢ですよー。堂道糸ってどうですかー? 字画とかも調べたんですけどー」
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