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結婚まで途中下車? 堂道と雷原さん
X支社ではノー残業デーなるものが設けられている。
支社長の『家庭あってこその仕事』という理念がモットーらしいが、仕事は山積みだというのに平和な職場だ。
そして、家庭もなく、知人も友達もいない俺にはただ暇なだけ。
ぶらぶら駅へ向かっていると、
「課長!」
と声をかけられた。
主任で部下の雷原さんだ。同じく定時で帰らされるところらしい。
「お疲れ様です」
「どうですか。こっち、慣れましたか?」
「いいえ」
「たしかに」
雷原さんは人の気も知らず、おかしそうに笑った。
部長は口開けば嫌味ばかりだし、営業と事務のババアたちはビクビク、まるで俺を鬼でも見るかのように恐れて目も合わさねえ。
雷春さんは初日、挨拶回りに帯同してくれたのもあって、今、普通に話ができる唯一の人間だ。
仕事もまず彼女に振って、そこから営業や事務さんに下りている状態。
やりにくいが、異動してきてまだ一週間なのだから仕方がないと言えば仕方がない。
「課長、本社で部下を殴ったって噂だから」
「え」
「殴ったって、本当なんですか?」
「違います」
「ですよねー」
雷原さんは頷いた。
「本当だったら懲戒免職ものでしょうからね」
「でもパワハラは本当っすよ」
「パワハラ……」
雷原さんは少し考えるように黙ってから、
「私、離婚原因が元夫のDVだったんで、そういうのする人としない人、わかるんですよ」
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