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「え、……あー」
「お気になさらず。会社にも隠してませんから。ではお先に失礼します」
そう言うと、雷春さんは颯爽と自転車で走り去った。
「あれ? 自転車……?」
って、自転車通勤禁止なんじゃねーの?
しばらくぼうっと突っ立っていると、ポケットのスマホが震える。
『今日、X支社はノー残業デーなんですよね? 私も今日はノー残業で夜、暇してます!』
「あいつなんで知ってんだ。怖っ」
返信はせず、またポケットにスマホを入れる。
自宅までの一駅、わざわざ電車に乗るために、駅を目指した。
*
「この資料、まだ?」
「ハハハイッ!」
「あの、アレ、どこにあります?」
「ハイッ! すすすすみませんッ!」
「いや、あの……」
ストレスはたまる一方だ。
とにかく営業部の面々が仕事が遅い。そして、できない。
俺だって、他の支社に少しの間いたこともあったが、ここは特にのんびりしていた。土地柄なのか、県民性なのか。
それなりに俺も学んではいる。怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえて、ひとまず自分で片づける。もちろんそれは楽だし、速いが、上司としてそれはやってはいけない。しかし今は自分でやらねえと進まないのだ。
ノー残業デーをのぞく平日は終電まで(そもそも逃しても自宅まで近いので大して困らない)、土日も出勤して仕事を片付ける。といっても、本社にいた時の繁忙期はいつもそうだった。
充実させたいプライベートもないので困らない。
「課長、帰ってます? 寝てます?」
雷春さんがデスクへやってきて言った。
「一体毎日どれだけ仕事してるんですか」
「一通り、滞ってるのが終わるまでは。って、こういうの俺が来るまで雷春さんが処理してたんじゃないんですか?」
「……最低限です。やばいのだけはやってました」
「でしょうね。今後は他の営業を指導していきますので」
「……指導、ですか」
「まあ、ある程度は厳しくしねえとやっぱ育たねぇなって実感してるところです」
「それって大丈夫ですか?」
「ご心配には及びません」
「あの」
「はい?」
「堂道課長ってバスケ上手いんですか」
「え?」
「あの、全国行ったって聞いて……」
「なんで知ってんの!? え、マジでなんで知ってんすか!」
女の情報網って、どうなってんだ!?
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