結婚まで途中下車? 堂道と雷原さん

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 俺だって指導経験はない。高校の練習に出向くことはたまにあるが、練習相手になることが目的だし、求められてもアドバイス程度のことしか言えない。 『別にこの子たちを強くして頂きたいわけではないですし、指導なんて気負って頂かなくても、気楽に見てやってほしいという勝手なお願いなんですが……課長、仕事ばっかしてちゃもったいないですよ。こっち来て……お暇なのでは?』  雷春さんが茶目っ気たっぷりに笑って言った。  やってみるか。  なんつっても暇だしな。  寝転びながら、胸ポケットからスマホを取り出す。 『こちら飲み会。そちらノー残業デー?ドウゾ?』 『応答せよ』 『飲み会嫌ですー課長いないから行ってもおもしろくない』 『応答せよ!応答せよ!』  『どうせなら飲むならそっちへ飲みに行きます』 「……おいおい、一杯いくらの酒になるんだよ」 『課長、応答、してください』  糸は毎日連絡をくれる。  めったに返信はしないがまれに返してしまうことはある。  話すことは山ほどある。けれど、もう話さない。  道は分かたれている。  糸には糸の人生がある。 「……もう忘れろ」  スマホをリビングテーブルに放る。  また届いたらしいメッセージの着信が机に響いて大きな音を鳴らす。  もう見ない。  どうにかだろうが、やっとだろうが、俺は俺の人生を、生きるから。
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