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結婚まで998日 #堂道と女将さん
そうだ、小料理屋、行こう。
ちょっとした、行きつけの店。
ちゃんとしたメシが食いたい。
熱くて、旨くて、人の手による、丁寧な感じの。
「そんなら再婚すれば?」と女将さん。
「する気もないし、出会いもねえし」
「若い子がいいとか贅沢言わなきゃすぐできるよ」
簡単に言うけどさぁ。
つか、おかみさんもまた『再婚』?
傍から見て、俺ってそんなに哀れなのか?
「会社にいないの?」
「社内イチの嫌われ者でして」
「悪そうな顔だもんね」
すみませんねぇ、悪役顔で。
「大丈夫、顔なんてついてりゃいいんだよ。だいたい中年の男前なんてロクなのいやしない。遊んでる人ばっかりだもん」
どれもこれも暴論だな。
「男気と清潔感! それさえあれば四十だろうと問題ないよ! 堂道ちゃんは男気はありそうだから、あとは清潔感だね!」
……足りてないのか、清潔感。
「風呂は毎日入ってるんだけど」
「バカ! 当たり前だよ。持ち物と着る物のことだよ! そこが哀れになっちゃ男やもめは惨めだからね。あとは、甲斐性だろ、懐の深さ、度量の広さ、なにより男は優しくないとね! あ、あと姑さんは大丈夫なの? 記念日とか誕生日とか」
必要なモン、他にもめちゃあるじゃねえか……。
持ち物かぁ。
気にしたことなかったな。
いや、結婚したいわけでも好感度上げたいわけでもねーけど。今更。
まあ、清潔感。あって困る物でなし。
「……清潔感」
確かに洗濯は溜めがちですが。
あ。
洗ったはいいが、そのままくしゃくしゃでクローゼットに眠ってるハンカチ。
一年に一回くらい、もうやらねえとやばい! ってなって一念発起して、五十枚くらいあるハンカチを一気にアイロンして、それを三日か四日か一週間、パンツのポケットに入れっぱなしだったり、そもそも持ってなかったりという現状。
ケツに手をやる。意外でもなく、今日も『ハンカチ忘れ』だ。
だって、別に使わねえもん。ハンカチなんてスーツの小道具。ただの装飾。パフォーマンスだ。
「……確かに、清潔ではないな」
「そうそう、それそれ、清潔感、清潔感」
おかみさん、返事テキトー。
ゴミ箱ぶつけた女に差し出すときに必要だしな。
差し出す機会があるかどうかは別として。
「ま。暇つぶしにはちょうどいいかも」
#結婚まであと998日
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