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「課長、課長、好き。もっと。足りません。もっと来て、ああ、あ、あ……」
飛び起きて、咄嗟に下半身を見る。
もちろん朝の勃ちあがりはあれど、体液で下着を濡らすという悲惨な事態は免れていた。
「よかった……中坊でもあるまいし……」
ふらつきながらベッドを出る。まだ暗い。時刻を確認するとまだ四時半だった。
「やっべー……」
台所に向かい、水を一杯飲む。
昨夜、寝る前に届いたライン。
『堂道課長、いままでありがとうございました』
『課長のことはあきらめて、糸は他の人を探します』
それを見た時、一瞬だけ周りから音がなくなった。
しかしそれも一瞬だけのことで、覚悟はしていたし、それを望んでいたし、そもそもそう仕向けたのは自分なのだから、ショックを受ける資格もない。
「よかった」とその報告に安心した気持ちも確かにある。
しかし次のメッセージが届いたのは、間にして一、二分。
ちゃんと返信しようと、はなむけの文面を指が探すより先だった。
『ショック?』
『悲しい?』
『そう思ったアナタは、それってまだ私のことが好きってことです』
やられたと思った。
そうだよ。そのとおりだよ。
あがいてんだよ。
けどな、そんなセンチメンタルなもんじゃないんだよ。
単純な話。
好きだけど、歳が離れてるし、俺はバツイチだし、って問題よりさきに、ただ今は物理的に距離が離れてたらそうなるもんだって話なの。
恋愛において一番の敵は距離なんだよ。
暗い部屋でスマホに触れると青い光を発した。
「俺だって会いたいよ。抱きたいよ」
結構限界だよ。
『私、あきらめません』
「あきらめてくれよ……」
朝が来る。もう、眠れなかった。
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