4376人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
書類仕事がたまっていた。
朝の占いで12星座最低の今日。そのとおり、何の面白みもない一日で、その実いつもと変わらない普通の一日でもあった。つまり最近の毎日はとびきりいいこともなければ悪いこともない日々だ。
仕事が終わっても楽しみもない。腹は減っても何が食べたいとかという希望もない。
「おい、コレー、やりなおしー」
「ハイッ」
「これ、どういうことデスカー?」
「あ、それはここがこうで……」
何枚も書類をめくって、決済のハンコを押していたら、デスクの上に置きっぱなしになっていたスマホの画面に『新着メッセージ』の通知が出た。
何気なく見た。
ありがたみも、どきどきもわくわくもなく、何の期待もなくメッセージを開いて、思わず立ち上がった。
例えば教室の椅子だったら、派手な音を立てて後ろに倒れていただろう。
事務カーペットに事務椅子だから、俺がどれだけ勢いよく立ち上がっても、手ごたえもなく椅子はコマがすっと後ろに滑っていくだけだった。
「……課長? どうしたの?」
事務のババアは遠慮なく聞いてくる。この種の人たちは見て見ぬふりをするということができないらしい。
「あ……っと」
「課長? 電話?」
「えっと……」
スマホを握りしめて、立ち尽くす俺をじっと見て、興味なのか心配なのか、とにかくババアたちは事あるごとにおせっかいでウザい。
「ちょっと、外出ます!」
とにかく、慌てて部屋を出た。
意味不明な俺の言動を、今頃噂されているはずだし、実際、されていた。
「挙動不審」
「……なんか、うろたえてた?」
「子どもが産まれた! って連絡来た時の男っぽくない?」
「隠し子?」
「妾腹に産ませた?」
「さすが悪代官だね」
ババアたちに平静を取り繕う余裕はなかった。
だって、そんなことあるか?
今日は金曜日だけど平日で、何の予告もなく、場所だって不確かで、三ヵ月も会っていなくて、一応別れてて、今日はアンラッキー星座1位で。
「でも、相当焦ってたよ、あれ」
「まあ、確かにね」
「どうしたんだろうねぇ。悪い知らせじゃなければいいけど」
信じられないし、言えるわけがないねえだろ。
『元彼女』が、すぐそこに来てるかもしれませんなんて。
最初のコメントを投稿しよう!