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嬉しい時ほど乱暴な口調になってしまう俺のことを糸はまだわかってないらしい。
嬉しい時ほど冷たくしてしまう俺こそ、どうしようもなく未熟な人間だけど。
「おい! 何やってんだ!」
久し振りに見る糸は変わっていなかった。
いや、べつに激やせとか憔悴してたりやつれられてたりしてもそれは怒るし、困るけど、以前と変わらない姿で突然現れられてもそれはそれで困るものだった。懐かしさと愛しさと、そして、自分が寂しいのだと自覚してしまった。
「会いに、きました。あの……すみません。急に……来ちゃって……ごめんなさい、ダメでしたか……?」
糸がどんな思いでここで俺を待っていたか考えもせずに、一方的になじった。
どうしようもなくビビリなくせに頑固で、不器用な世渡り下手。自分のことはよくわかっている。
糸は旅支度をしてきたような大きな鞄をもっていた。
腹立たしい。
何してんだよ?
何で来たんだよ?
つか、どうやってきたんだよ。そら、まあ新幹線だろうけどそう言う事じゃなくて。
マジで、何やってんだよ。
何で来るんだよ。もう無関係だろ。
なんで、俺なんかでつまずいてんだよ。
「堂道課長とします。恋愛も結婚も」
――――ああ、もう降参だ。
けど、俺はまだ足掻くぞ。
おい、誰か、いや神様仏様。この子を幸せにしてくれる男を誰か使わせてくださいよ。
この子は、俺なんかで終わっていい人じゃないんです。
だから、誰か。今すぐ、俺から糸を攫ってくれ。頼むから。
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