4376人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
結婚まで245日 #堂道と玉響家
玉響家訪問、一回目。
感触△。
糸を見る限り、育ってきた家庭環境や思想の大きな違いは心配していかなかったが、世の中には俺の道理ではけして分かりあえない人たちと言うのは必ずいて、糸のご両親がそうではなく、それには安心した。
糸自身の価値感に違和感を持ったことはないから、糸の両親がどうであれ関係ないと言えばそうだが、そこの無理を押し通して結婚するとロクなことにならない。
俺の実家だって褒められたものではないが、ことさらに変わってはいない。いわゆる『一般的』な許容範囲だ。
時代が変わったとはいえ、結婚はまだまだ親族間の問題ととらえた方がトラブルは少ない。
糸の顔はお義父さん似だ。
お義父さんは良くも悪くも公務員な感じで、お義母さんは想像よりはざっくばらんな方だった。
娘が俺のような条件の男を連れてくれば、反対するのは尤もで、あとは時間をかけて許してもらうしかない……って、真面目に考えていたのは糸の兄ちゃんが帰ってくるまでだった。
糸の兄上、名は錦。
兄妹仲は特別いいわけでもないと聞いていたから、お堅い寡黙な男かと思っていたのだが。
酒は弱いらしい。
そして、とても社交的な性格でいらっしゃる。
距離が近い。寄せてくる。マジ、近い。
もしかして、お義兄サマ、そっちの趣味かと思ったら、
「東京行ったら、風俗案内して欲しいっス」
「え? はい? えっと……」
「やっぱ、こっちじゃ顔指すんっスよー」
一応、錦も憚っているのか声を潜めて言うから、お義母さんと糸には聞こえていない。
いや、いっそ聞こえててくれ。そしてこの兄を止めてくれ。
「いえ、そういうことは私も詳しくないので……」
「じゃあ、一緒に行きましょうよ!」
俺、君の妹さんと結婚したい男なんです。
そんなの絶対できません。
たしかに君のおかげだけども。
なんてーの? 落ち込んだ雰囲気の中で、君の能天気?さに救われてるけども!
「東京に兄貴ができるなんて嬉しいなー。オレ、毎週東京遊びに行っちゃいますよ!」
糸と結婚したら義兄になる錦は従順な犬みたいに俺になついてくれた。
まあ、ありがたい。
俺が錦の立場だったら、すげぇ複雑だし、まず「なんでこんなオッサンなんだよ」って斜に構えてしまう。
初対面で『そんな』話もできないし、まあ、しないよな……普通は。
錦が一番想定外だった。
最初のコメントを投稿しよう!