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オイ、人事部の女子。
固まりすぎ。キミ、表情に出すぎ。
「ってことなんで、彼女の結婚退職はねえけど、名前変わったりすると思いますんで」
俺の噂ってフロア超えちゃってるわけ?
俺、有名人かよ?
ま、それもそうか。パラハラだ、左遷だって、度に世話になってるか。
「いろいろお手数かけると思うけどよろしく。始業前にゴメンネー」
オイ、人事の女子。
何か言えよ。
*
続いて総務部。
「赤石チャン」
「おはよ、堂道君」
「俺、今度結婚することになったんでー」
「えー!? 嘘! 噂の? 営業部の子!? 年下!?」
声でけぇ。それ以上に、おいおい、総務部のみなさぁん? 作業、止まってる。聞き耳たてすぎ。
「羽切君が嬉し泣きしてたよ」
「マジかよ、キモいなアイツ」
「よかったよ、堂道君の社内評価低すぎるの可哀そうだなってずっと思ってたんだ」
社内評価低すぎるのか。まあ、わかってっけど。わかってっけどさー。オブラートに包まねえよな、オバサンは。
「わかってくれる子はいるんだねー。神様はいるんだねー。っていうか、若い子ゲットするなんて、残り物には福があるだね」
「ま、大切にしますワ。忙しい時にすまん」
「全然! 朝から幸せもらったよ! あ、お祝い金出るよー。社内結婚だから掛ける2だよ! よかったね」
*
「えー、朝礼の最後に。私事ですがこの度結婚することになりまして」
静かだ。
「お相手は一課の玉響さんです」
静かすぎる。
あ、これ、息を飲んでるってやつか。青天の霹靂的な? 寝耳に水的な? いやいや、俺ら付き合ってんのみんな知ってただろ? さっきの人事の女子じゃあるまいし。
こんな小っ恥ずかしい思いをする日が来るとはなぁ。
「同じ部署内のことで、皆さんにはいろいろやりにくいこともあるかと思いますが公私混同には一層気をつけますので、よろしくお願いします」
当馬が「おめでとうございます!」と言ってくれて、ようやくまばらな拍手が聞こえはじめた。
ええ、ええ。俺の評価なんてこんなもんですワ。
糸チャン、こんな社内評価の低い夫でゴメンネ。
糸はデスクの周りの人間から冷やかされたり、祝福されている。
でも、まあ糸チャンが嬉しそうで何よりです。
数分後、あの絶句していた人事部の女子らしきからメールが届いた。
入籍日を知らせる必要があるらしい。
結婚式だのはまだ具体的に決まっていないが、籍は早く入れたいと思っている。
昨夜、糸にそう伝えると「今から役所行きましょう!」と言いだした。
いやいや、証人がいるんだよ。
とりあえず、紙もらってきて……。
記念日にするにふさわしい日を探して、卓上のカレンダーをめくった。
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