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「結婚式は糸がしたいようにすればいい。海外でもよし、盛大にホテルでするもよし」
テーブルを挟んで、改まってそう話す。
糸の薬指に光る、まだ傷のない艶のある指輪は見るにこそばゆい。
俺が糸に贈った、俺のものという、そんな主張が気恥ずかしい。
「私、別にしてもしなくても。部長は二回目ですし」
糸はきょとんとしてコーヒーのマグカップを手で包みながら言った。
「そんなこと言うなよ。俺のせいで、女の人の理想を糸が諦めなきゃいけねえのは申し訳ない。お義父さんやお義母さんに対しても」
「いえいえ、ホントに、夢も理想も特にないんですよ。ホテルでってなるとお金もかかるし、会社の人も呼ばなくちゃだし、部長が今呼ぶって専務クラスでしょ? そんなのめんどくさいですし、それなら新婚旅行に使いたいです」
「それがお前ら世代の価値観なのか」
「友達も式しない子、多いです。でも、部長のタキシードは見てみたいっていう願望はあるかなー。だから、何かするとしてもレストランとかカジュアルな感じの……あ、唯一憧れてるのがありました! ディズニーランドでウエディング」
「それって、まさか園内でやるとか?」
「そうです! シンデレラ城の前で、みんなに祝福してもらって。王子様とプリンセスのような結婚式ができるんです!」
ディズニーランドなど一度か二度しか行ったことがない。それも十年以上も前の話だ。少ない知識で想像しようとして、完全にイメージする前に却下した。
「無理。ナシ。それだけは勘弁してくれ」
「なんでもいいって言ったのにー」
「んなみせもんでもあるまいし」
「結婚式自体が見せ物でしょう?」
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