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糸は結婚式にあまり興味がないらしく、話がなかなか前に進まない。
一方で、住むところには積極的で、すでにいくつかモデルルームを見て回ったりしている。
「それより早く一緒に暮らしたいです」
「俺はA町かLのマンションのどっちかだと思ってるけど」
「子ども三人ってなるとAもLも部屋数がなぁ……Iのマンションがベストなんだけどなぁ」
場所、間取り、価格その他もろもろIにある物件はベストなのだが、すでに完売でキャンセル待ちの客は二十組にものぼるらしい。
「あのな、そもそも現実問題、子どもはせいぜい一人だ。よって、AかLの間取りで問題なし」
「えー! 私、三人産む気です!」
「産む気があるとかないとかじゃねえから」
「産みます!」
そんなこんなで何一つ具体的に決まらないでいた頃に、たまたま俺の実家と郊外のオーベルジュに食事に出かけたのだが、そこを糸がいたく気に入って、その場でその店でのレストランウエディングに決まった。決まった日取りまでふた月もなかった。
「スピード婚ですね!」
「それって出会ってから結婚までの時間を言うんだろうよ」
「あ、そっか」
「家は、とりあえず今の家に一緒に住むか」
「そうですね、住所変更が無駄に多くなっちゃっていやだったけど。あー、引っ越しめんどくさいなぁ。なんか最近疲れやすくて」
「色々環境の変化があったからじゃね? もうお任せパックにすればいいじゃん」
「自腹の引っ越しでそんなのもったいないもん」
「俺、出すじゃん。お、電話」
オーベルジュから帰る車の中でそんな話をしていた時だった。
かかってきた電話は、Iのマンションのキャンセル待ちが出たという知らせで、今度はあれよあれよと言う間に話が進んだのだった。
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