安楽 試運転第一号

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安楽 試運転第一号

「しかし有島さんて、怖いもの知らずですよね⁉」 間宮は、『安楽』のボタンを試運転操作し無事、三次元世界から戻って来た有島を捕まえて、半ば呆れたように言い放った。 「その言葉、そっくり間宮さんにお返ししますわ!」  これまでの経緯を話すと、こうである・・・・  有島は或る日、常連になったジムのランニングマシンで歩行トレーニングに励んでいた。 そんな有島に声を掛けて来たのがインストラクターの真野である。 「お疲れ様です。体調に異常は在りませんか?」 「あっ、真野君か⁉・・有難う、いたって・・健康過ぎるかな?」 「それは何よりで・・何かありましたら声かけてください」 社交辞令で言ったまでの真野の背に向けて、有島が追うように話しかけた。 「あっそや! 真野君、このランニングマシンやけどな・・『安楽』ボタンって一つ付けられへんやろかな?・・毎日同じメニューで歩くのもつまらんで~、もう飽いてしもたわ・・」  有島が冗談のつもりで声にした『安楽』ボタンとやらの要望を、真野が真剣に受け止めてしまったことから、前回の「三次元の爺さん」コメディ小説|gunny booy - 小説投稿エブリスタ https://estar.jp/novels/25873417の物語が始まったと言う訳だ。 だが、真野はちょうど社内の新企画のプレゼンでそれを熱く語ってしまったがために、在ろうことに安楽ボタンが実現してしまったのである。    冗談のつもりだった有島は真野に負い目を感じたのだろう、その実験台として試運転第一号を名乗り出たのである。  ところが運悪くというのか、有島が三次元で発した話しの内容が、現世でマシン上に横たわる有島の譫言(うわごと)として間宮に訊かれたと言う訳だ。  有島と間宮は共に現役をリタイヤした者同士であり、同じスポーツジムに通っている仲間でもある。
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