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前夜祭グラフティー
「ねぇ、私達って付き合ってるの?」
「えっ、」
私が不意にそう言うとアイツはハトが豆鉄砲を喰らった様な顔をして私の顔を見た。そしてアイツの顔は瞬く間に真っ赤になってしまった。
「な、何だよ、急に…」
アイツは真っ赤な顔で言った。普段のアイツとは違う“しどろもどろ”な様子が私には何か新鮮に映った。そして、私は更に切り込んでいった。
「だ、か、ら。私達は付き合ってるのか?って聞いてるんでしょ?」
アイツは小さく口を開いたまま、真っ赤な顔のピクピクさせながら固まってしまった。私はそんなアイツを見ていて何だか楽しくなってきてしまったのだった。普段はクールぶって、スカした感じのアイツが動揺して固まってしまっているのだから、可笑しくてしょうがないのだ。そして私は込み上げてくる笑いを我慢しながら、質問を変えた。
「じゃあ、私と付き合いたい?」
「いや、それは…、その、あの…」
私は笑いを堪えるのが辛くなってきた。普段は勝ち気で私に対していつも上から目線のアイツのこんな姿がますます可笑しくて、可愛くて…。
「あれれー、どうしちゃったの?いつもの君とはまるで別人だよ?そんなに緊張しちゃって」
「だ、だって…、そ、そんな事、急に言われたって…」
「…。じゃあ、キスしよっか…?大丈夫、誰も見てないから…」
アイツは目をまん丸に、口をパクパクして私を凝視していた。私はそんなアイツの手を引いて、薄暗い体育倉庫の…
“ハッ!”
私はやっと我に帰った。薄暗い教室に一人。微かに聞こえるくるカラオケの音。皆んなは多目的室で、前夜祭の真っ最中だ。
『文化祭前夜祭の最中に一体、なんて事を…!』私は全身がとてつもなく熱くなってきて、顔から湯気でも出ているのではないかと思ったほどだ。
そして、今まで書いていた小っ恥ずかしい落書きをしたルーズリーフをクシャクシャに丸めて、ゴミ箱に投げつけた。だが、力一杯に投げた紙くずはゴミ箱の縁に当たって、数メートルほど弾かれてしまった。
私は急いで紙くずを拾いに走った。が、その時、薄暗い教室に不意にアイツが入って来たのだ。そしてアイツはその紙くずを拾い上げた。
私が『ヤバイ…!』と思っている間に、アイツは素早く紙くずを開いて、あの落書きを読み始めたのだ。もう、私は居ても立っても居られない程に頭の中がグチャグチャになっている。そしてアイツは平然と言った。
「うん。今更何言ってんだよ、俺達付き合ってるだろ?たった今からだけど…」
アイツは平然とそう言った。私は全身から水蒸気が噴き出しているのではないかと、錯覚する程に全身が熱くなってしまっていた。
残念ながら、この先の記憶は無い…。事もないのだが、この先の事は私達だけの秘密である。終
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