不可幸力

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渡された資料の中に付箋が入っていた。 《080-xxxx-xxxx  19時 〇〇←お店の名前と住所  一人で来てね!         小鳥遊 》 この名前だけは覚えている。 変わってるから。笑 例の、奥様も社内にいるのに口頭で誘ってきた人だ。 どうしよう…時間が書いてあるから無視できないよ… 前までは櫻井くんや鈴木課長に頼ってばかりいたけれど、今回はそうもいかない。 お昼休み、資料の中の付箋を眺めていたら、隣の席の日野さんが椅子ごと移動してきて「やめときなよ。」と声をかけてきた。 「行きたくないからどう断ろうかと思って…。」 頭を下げてヒソヒソ声になってしまう。 「あーそっち?」 日野さんはなんだか掴めない中性的な感じで、今まで出会ったことないタイプ。 色白で身長はさほど高くなく、服装もスーツをかなり着崩している。 歳は確か一個下だった気がする。 「奥さんいるのにあの人食い散らかしてるからね。」 「そうなんだ。どうしたらいいかな。」 「七瀬さんて意外と慣れてないんだね。」 「意外と、とは…。」 「あははっ、ごめん。…俺言ってやろっか?」 「いいの?」 「うん、任せて。」 日野さんは付箋を私から受け取ると、席を立った。 私はパソコンをチラチラ見ながら様子を伺っていた。 あ、あれ?あれれ? 彼はあろう事か奥様の所へ行って付箋を渡しながら、こちらと違う方向へ指差している。 そして奥様が付箋を見ると、旦那さんのところへ行き何か話し出した。 と、日野さんがこちらへ帰ってきた。 フロアは少しざわついている。 「もう心配ないよ。」 日野さんはシレッと席に着いた。 「どうやったの?」 私は椅子を日野さんに寄せて聞いた。 「小鳥遊さんの奥さんにこんなの拾ったって言ったんだよ。落としましたか?ってね。 同じ苗字だからね。」 「すーごーいーっ。」 私は小さく拍手した。 「ありがとう日野様!」 「あははっ。この前助けてくれたお礼。」 「えーっありがとう!日野さんに迷惑かからないかな?」 「ぜーんぜんっ。何かあったとしても俺強いから。」 助けたまではいかない小さなアドバイスだったけどね。 いい人だな、日野様! この一件以来、私はよく日野様と話すようになった。 日野様は色々詳しくて、カバンから女性雑誌を広げてきたりと、かなり気が合ってしまい珍しく直ぐに私は心を開いた。 日野さんの彼女は読モで、どうりで雑誌を持っている筈だと納得した。
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