このひかりに会いに行く

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「はー、生き返る!」 台所のシンクにもたれて麦茶をこくこく飲んだ朱莉は、幸せそうに一息ついた。周囲を見回し不思議そうな顔になる。 「引っ越しなのに、冷蔵庫とか、レンジとかおきっぱじゃん。他の家具も」 「叔父さん一家にそのまま引き渡すからいいんだ。新居に必要なものは父さんと美咲さんが新しいの買ったから」 先月の頭、父の再婚と仕事の都合で遠方への引っ越しが決まった。 既に、父と、父の再婚相手である美咲さんは、新しい家で新しい生活を始めている。 転校の手続きの関係で、俺だけが一人、まだ家に残っていた。 「引き渡しって明日だったよね?」 「うん」 今まで通っていた高校の通学期間は昨日で終わった。あまり実感は湧かないが、今日が、俺にとっての引っ越し前日だ。 朱莉がそわそわと切り出した。 「ねえ、ちょっとだけ墨の匂いがするね」 「……和室で墨磨ってたんだよ」 ばれた。気まずい。でも、隠し通せるものでもない。 庭に面して日当たりのいい和室は、元々、母が書道教室習をひらいていた部屋だ。小さい頃、朱莉も少しだけ通ってくれていた。 引っ越しに伴って和室だけは片付けた。母は他界した。もう書道なんてやらないと喧嘩した日々は返ってこない。 「書道やる気になったの?」 未練がましいように思われるのが嫌で、自然と乱暴な口調になる。 「なってねぇし。つか、まじで何しに来たんだよ?」 「えーと、ウーバーイーツをば、少々」 「頼んでねぇし」 俺は朱莉の顔をまじまじと見遣った。 朱莉がへらっと笑う。麦茶のコップを調理台に置いて、例の四角いリュックを開ける。 取り出したのはオムライスだった。
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