【一也視点】可愛い志信を嫁に出す

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【一也視点】可愛い志信を嫁に出す

俺は倉橋一也。この度長年片想いしていた相手が好きな奴と上手くいってしまい見事失恋した30歳の男だ。 俺には姉ちゃんが2人いて、小学生くらいまでは姉の少女漫画を借りてよく読んでいた。 可愛いヒロインが最後は王子様みたいな恋人と幸せなる…そういうのをかなり幼い頃から刷り込まれてたんだ。それで俺は見た目に似合わずなかなかのロマンチストに育った。 小学校の高学年になると、保健の時間に性教育として第2の性ーーー通称バース性についての説明がされるようになる。そこで俺はオメガとアルファの結びつき、特に”つがい”ってものにすごく惹かれた。 一生の絆ってなんか良いよな。 女子はみんなキャーキャー言ってた。「好きな男の子とつがいになりたい!」とかね。男子は逆に恥ずかしくて、「気色悪い」とか「つまんねー」とか言ってる奴がほとんどだった。 俺も表面上は「くだらねー」って笑い合ってたけど内心はすごく良いなって思ってた。 もし自分のバース性がアルファで、お姫様みたいな可愛いオメガの子といつかつがいになれたら…なんて。 その時もちょっと気になる女の子はいた。でも気になるなーくらいで、その子とつがいになりたいとまでは思わなかった。 そして5年生のある日、俺のクラスに転校生が来た。それが藤川志信だった。 一瞬男か女かちょっと迷ったけど、喋るのを聞いたら男だった。 そして、俺は一目でわかった。この子はオメガだって。 実際のところは中学生になって検査しなければバース性ははっきりしない。なんだけど、志信は男なのに男じゃないみたいで、かといって女とも違う独特の雰囲気を持っていた。 あの綺麗な顔をもっとずっと見ていたかったけど気味悪がられては困るのであまりまじまじとは見られなかった。 他の子供たちもなんとなく彼が自分たちと違うとわかったようで、避ける者や軽くいじめる者などが現れた。 彼は確かに鈍臭くて、同じ歳の子と比べてスポーツも勉強もイマイチの成績だった。 だが、抜群に可愛らしくて俺はこの子を守りたいと強く思った。 俺と志信はたまたま家が斜め向かいで、帰り道も一緒だったからすぐに仲良くなれた。志信の母親は仕事をしていたから、夜になるまで帰ってこない。なのでうちで一緒に夕飯を食べることも度々あった。 こうして志信との距離が縮まるに連れ、俺は次第に保健の授業で習ったアルファが俺でオメガが志信で、2人がつがいになれたら良いのにと思うようになっていった。 ◇ ◇ ◇ ◇ しかし中学校1年生の終わり頃に行われたバース性診断で、期待も虚しく俺はベータ判定だった。 他の生徒より体もデカイしスポーツ万能、勉強もそこそこできるし「お前アルファなんじゃね?」と何人かが言ってきたくらいだった。それで俺もちょっと期待したんだが…。 一方、案の定と言ってはなんだが志信はオメガだった。クラスの中にアルファはおらず、オメガが1名だけであとは全員ベータだった。 志信がこの結果に気落ちしていやしないかと心配したが、思いのほかケロッとしていた。 「母さんがオメガだからきっと自分もそうだって思ってたし」 とあっさりしたものだ。 俺はアルファじゃなかったけど、それでもこいつを守りたい気持ちは変わらない。 志信の家には父親がいなくて、おばさん1人で生計を立ててるのは知っていた。貧乏暮らしのオメガ親子で、先行きはかなり厳しいと思う。 俺は志信には幸せになってもらいたかった。だからこそベータの俺が直接志信を支えるより、こいつのことを大事にしてくれる王子様みたいなアルファが現れて幸せにしてくれるのを願うようになった。 「俺がきっと良い奴見つけてやるからな。待ってろよ」 俺はベータなりに努力して、なるべくアルファの男たちとも対等に付き合えるようになろうとした。そうしたら、志信になるべくいいアルファの男を紹介してやれるだろ? ただ、高校を卒業して志信は大学には進学出来ず働き始めてしまって会う機会がグッと減った。 それはすごく寂しかった。かといって派遣の仕事やバイトを掛け持ちして疲れている志信を呼び出して遊ぼうということもなかなか出来ないのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 俺は勿論大学に行った。良い大学を出て、なるべく良い所に就職して、志信に会うアルファを探すためだ。 自分でも人生の目標設定間違ってるなって思ったけど、とにかく俺は夢中になったら周りが見えなくなるタイプなんだよ。 そんなこんなで俺は授業こそ真面目に出ていたが、それなりに暇でそれなりに遊ぶ相手もいるという学生生活を送っていた。 20歳を過ぎれば酒もよく飲むようになったし、そうなるとますます志信と会うことが少なくなっていった。 そんなある日突然夜中に志信から電話がかかってきた。俺は先輩の家で宅飲みして眠りかけてるところだったんだが、志信が苦しそうな声で「今からうちに来てくれる?」って言うからびっくりして目が覚めた。俺は大急ぎでタクシーに乗って志信のアパートに駆け付けた。 「どうした志信!?」 「一也ぁ…ひっく、僕、苦しくて…1人じゃどうしていいかわかんなくなって…ごめん…でもやっぱり帰って…」 「はあ!?お前、そんな状態のお前置いて帰れるわけねーだろ!」 志信はどうやらヒートの最中らしく、全身汗と精液にまみれて震えていた。 「おい、どうしたらいいんだ?」 「ぅ…苦しいの…ここ、ここが…」 志信は尻の穴に指をつっこんで開くように動かしている。オメガのヒート中なのでそこは女性器のように濡れていた。 「一也…お願い入れて…中で出してもいいから…」 「何!?俺が?!」 「ダメ?お願い、今回だけだから…男の人に入れて貰ったら治るって先生が言ってた…こんなこと一也以外に頼めないから…ぁ…」 酔いなんて完全に吹っ飛んで、こめかみの血管がどくどくいい始めた。 俺…志信のこと抱いていいってこと…? 「早くぅ…お願い…」 志信の切羽詰まった声を聞いて俺は腹を括った。ええい、こうなったらやってやる。 発情した志信を見るのはこれが初めてではなかった。一度アポ無しで訪問したらヒート中で仕事を休んでいる志信が家に居たのだ。俺はどうせその日は仕事で不在だろうからドアに出張土産を下げて帰ろうと思っていたので、中から物音がして嬉しくなって鍵のかかっていないドアを開けた。 そしたら、志信が自慰にふけってる最中でギョッとして扉を閉めて逃げ帰ったのだ。志信は行為に夢中だったからこちらには気付かなかった。 あのとき家に帰るまで勃起しないように別のことを考えるので必死だった。それが今、発情した志信を抱いていい状況になっているのだ。俺はあまりの興奮で触ってもいないのにペニスが硬さを増すのを感じた。 俺は今の今まで志信と本気でどうにかなろうなんて思っていなかったし、なるべく志信のことを思い出さないで済むようにと彼女に選ぶのはタイプの全然違う女ばかりだった。 だから、男を抱くのは初めてだった。ちょっとうまくいくのか不安だったけど、ヒート中のオメガのアナルは女性器同様に分泌液が出るので、女とするのとほとんど変わらなかった。 ただし、気持ちよさは格段に志信とのセックスが上だ。俺は自分の気持はなるべ抑えるように抑えるようにと努めて来たが、この状況で一体どうやって気持ちを隠せというんだ? 俺は志信の身体を抱きながら何度も好きだとうわ言のようにつぶやいてしまった。 事後、何もなかったかのように身体を綺麗にしてやって俺は志信の部屋を後にした。 ◇ ◇ ◇ ◇ そしてヒート明けに志信と会ったときに彼に言われた一言が俺の心をグサリと突き刺した。 「一也は僕のことが好きなの?」 俺は迷った。 ここで回答を間違えれば俺たちの関係が終わることになる。 好きっていうのが正解か?それとも好きじゃないと答えた方がいいのか? もし好きって言ってあいつが受け入れてくれたら…あいつと付き合えたら、そんなに嬉しいことはこの世にない。 だけどもし振られたら?もう友達ではいられない。 だけどそんなのは絶対耐えられない。友達でいいから俺は志信のそばに居たい。 それなら…好きじゃないって言うのが…安全だ。 正解かはわからないけど。 結局俺の選んだ答えはこうだ。 「気色悪いこと言うな。友達としては好きだけど、恋愛としての好きじゃない」 言いながら心臓がドカドカやかましく鳴ってて俺はこのまま死ぬんじゃないかと思った。 答えを聞いた志信はホッとしたように微笑んだ。 「良かった、本気で好きって言われたらどうしようかと思っちゃったぁ。僕一也のことそんな風に考えられないし」 この言葉を聞いた時、俺の心はボコ殴りされて一旦死んだ。 可愛い顔しているが、こいつはたまに悪魔なんじゃないのかってほど残酷だ。 いや、これが志信の良いところなんだ。人を陥れようとか思わない素直さ。 頑張ろうとする健気さ。グレたりしてもおかしくない状況で、真っ当に生きようと努力してる。 おばさんが厳しい人で、貧乏でも他人に迷惑がかかるようなことだけはしてはならないときつく言い渡していた。 だから、ちょっと困った時気軽に人に頼れないところがある。 バカだけど、可愛げがあってお茶汲むくらいしか取り柄もないけど俺はワンチャンアルファの嫁になるのも夢じゃないと思っていた。 最終的に貰い手がいなかったら俺が嫁にもらうけど、いつか白馬に乗った王子様が現れてハッピーエンドになるところを見たいってずっと思っていたんだ。 そしたらまぁ…現れた王子様はちょっと頼りないアルファ様だった。態度だけはデカいがとんだ鈍感チキン野郎だ。 しかし2人は運命のつがいってやつらしくて多分志信に他の男を探せと言っても無駄だろう。ベータの俺にはよくわからんが。 あの日突然あの男が現れて、志信があいつを見る目を目の当たりにして俺は自分の恋心をすっぱり諦める決心がついた。 志信は今まで見たことも無いような穏やかで愛情のこもった目で鳳社長のことを見ていた。 この男のことがそんなに大事なんだな… 俺は今まで志信には志信のことをなんでも任せられるスーパーマンみたいな奴が良いと思って探しに探していたけど、志信が相手に愛情を持って聖母みたいに包み込んでやるっていう関係も案外良いのかもしれないな。 ただし、俺からそんなことを口にしてやる義理はない。「絶対に幸せにしないと殺す」って帰り際社長に耳打ちしてやった。 あいつは鼻で笑って「当然だ」と答えた。 本当か~~? 俺はいつまでもお前たちの面倒見てられないんだからな。 俺だって忙しい身なんだ。例えばこの、最近同じ部署に配属された後輩。こいつが志信並にやらかすタイプのそそっかしい奴で目が離せない。あーなんか似てるななんて思ったら首には噛み跡があって案の定オメガだった。 まだ20代半ばのはずだがもうつがいがいるようだ。ちっ。羨ましいとか思ってねーからな。 とにかく、俺は志信の他にもお守りしないとならない奴がいるってことだ。 だからこれ以上俺に迷惑かけるなよ。 ちょっと気が早いけど結婚おめでとう、志信。幸せになるんだぞ。 そんなことを考えていたら俺を呼ぶ後輩の情けない声がした。 「倉橋先輩~!すいませんこれ教えてください~」 「あ…?おい、それ前にも教えたろうが」 「え!そうでしたっけ?」 「ったくしょうがねぇな」 「えへへ、さすが先輩!アルファ並に優秀で優しい~!」 「おだてても何も出ねえぞ」 俺は今日もアルファに劣らぬベータとして堅実に働いている。 〈完〉 ーーーーーーーーーー 以上、一也の恋心編でした。 一也もなんだかんだ、ここぞという時には本心を言えなかった男の1人です。 志信にその気がなかったので恋心を打ち明けたとして上手く行ったかはわかりませんが、かといって告白していたとしても友情は変わらなかったような気もします。 素敵な恋人を見つけて楽しい人生を送ってほしいなと思っております。 この次はおじいちゃん編を数日空けてスタートする予定です。
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