【一也視点】3.憂鬱な結婚式

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【一也視点】3.憂鬱な結婚式

俺は元来あまり物事を難しく考えるタイプではないので、キスの件は気にしないことにして月曜日も普段どおり出勤した。そしたら金子の方も至って普通で、あれは単なる酔っぱらいの挨拶だったのだと結論付ける事ができた。 「倉橋先輩、ここなんですけど見て貰っていいですか?」 「おい、お前何年目だよ?これくらいちゃんとわかってないとダメだろが」 「すいません……わかってるつもりで以前間違えちゃったんで一応確認しておこうかと」 「ああ、そういうこと?ったくしゃーねえな」 「ありがとうございます!」 金子は分かりやすい。俺が叱るとしょんぼりするし、こうやって手伝ってやると目をキラキラさせて喜ぶ。素直で可愛い後輩だ。 これでしばらくの間は志信が俺の元を去ってしまったことを忘れられそうだ。 なんでまた志信のことを引き合いに出すのかというと、再来週はいよいよあいつの結婚式なんだ。 「ーーーで、これがこうだから……うん。間違ってないよ、送信して大丈夫」 「ありがとうございます先輩」 金子の笑顔が眩しい。なんにも悩みなんて無さそうな顔してるよなぁ。 あ、でもそうと見せかけて志信なら変に一人で問題抱え込んでたりするからこいつもわかんねーか。 「あの、お礼と言ってはなんなんですが再来週また飲みに行きませんか?今度は僕が奢りますので!」 「ああ?お前に奢られる筋合いはねーよ。それに悪いな、再来週は予定あんだよ」 「そうでしたか……」 さすがに結婚式の前日に飲んだくれて遅刻でもしたら大変だからな。金曜は大人しくどこへも寄らずに帰るつもりだ。 金子は俺に断られてしょげた顔をした。ったく本当にわかりやすい奴だな。俺は金子の肩を叩く。 「そんな顔するなよ。その次の週はどうだ?俺は空いてるから」 「ホントですか?僕も空いてます!」 「ただし割り勘だからな」 「はい!」 金子はまた目を輝かせた。こんな可愛い生き物に懐かれて嬉しくない男はいないだろう。 ただ最近会社で仲良くし過ぎていたかもしれないと反省している。というのもチーム内に俺が下心有りで金子を庇ってると思ってる奴がいるのだ。 「倉橋お前金子と最近随分仲良さそうだけどどこまでいってんの?もうヤッた?金子の態度ガラッと変わったよなぁ。あいつ見た目だけはいいしヤらせてくれるなら俺が先に優しくしておけば良かったよ」なんてニヤニヤしながら言われたのだ。 おいおい、うなじの噛み跡目に入ってねーのか?どう考えてもそんなこと有り得ないだろ。 もちろん否定したが、最近よく懐いている金子の態度を見ればそう勘違いする者が周りに出てもおかしくはなかった。 「ちょっと距離置いた方がいいのかもな……」 俺が庇いすぎるせいで返って周りの反感を買わないとも限らない。 志信の結婚式だけでも憂鬱なのに、金子との関わり方の見直しも迫られて気が滅入りそうだった。 金子に対しては見返りを求めて優しくしてやってるわけじゃない。だけど、せっかく信頼してもらえてるのに横槍が入るせいで関係が気まずくなるのって癪だよな。 ◇ ◇ ◇ そんなことを考えつつ過ごしているうちに幼馴染の結婚式当日となった。最近志信が俺にあまり連絡して来ないのは優しい旦那がいるということの他に、志信の叔母さんが現れて親しくしてもらってるからというのもあるようだ。 今日来る前にちらっと連絡はあったけど、志信側の披露宴参列者のメンバーがすごいことになっていた。 俺はそこまでミーハーではないが、さすがに誰でも知ってるよという大物芸能人が同じ空間で席に着いていたのだ。叔母さんが女優だというだけで驚きだったのに、披露宴は志信と旦那そっちのけで有名な監督や俳優たちが視線を集めていた。 もちろん俺はそんなものに興味は無いので志信を見ていたわけだが、あいつは結婚して生活が安定したのもあって以前にも増して綺麗になった。ちょっとでもつらそうな顔してたら旦那をとっちめてやろうと思ったけど、その心配は無用だったみたいだ。 そして結婚前に志信が俺の家で暮らしたときはお腹の中に居た赤ん坊は、旦那の父親の横に置かれたハイローチェア(というらしい)に鎮座してキョロキョロと辺りを見回していた。 なんか……もっとしんみりするかと思ってたけどそれ以上に色々カオスな披露宴だったな。 とはいえ式と披露宴が終わって二次会にも顔を出した後、俺はそのまま帰宅する気になれずもう少し酒を飲んで行くことにした。その時点で実は結構飲んでいたが、まだ飲み足りない気分だった。 しばらくの間1人で杯を重ねていたが、無性に誰かと話したい気がしてきた。 「はぁ……もう23時かぁ。上沼なら来るだろ……」 俺はスマホを手にとって友人に電話を掛けた。 5~6回のコール音の後、電話がつながった。 「あ、もしー。おいお前今から赤坂まで来れねえか?飲んでんだよ」 『えっ……あ……こんばんは』 ーーーえ……?あれ??この声、上沼じゃねえ……! 「すいません間違えました!あれ?」 スマホから耳を離して画面を見る。クソ!連絡先のあいうえお順で前後して登録されてる金子に電話掛けちまった。 『あの、もしもし、倉橋先輩?』 「あ~~わりぃ。別の友だちに掛けたつもりで間違ってボタン押してたわ。寝てたか?ごめんな。じゃあまた……」 俺が謝って通話を切ろうとしたら金子が焦ったように言う。 『待って!その……僕で良ければ今から行けます、赤坂ですよね』 「え……いやでも……」 『今僕六本木なんで、すぐです』 「そ……そうなの?じゃあ……飲むか、一緒に」 『はい!なんてお店ですか?』 あーーー失敗した。この情けない状況で後輩に会うことになっちまった。失恋した相手の結婚式終わってベロベロになってる先輩なんて見るに耐えないだろーーー…… 「何やってんだよ俺は」
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