【一也視点】4.酔っ払いの暴走

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【一也視点】4.酔っ払いの暴走

金子はすぐ行くと宣言した通り、20分後には俺の前に現れた。 「こんばんは、先輩」 「ああ、悪いないきなり間違い電話しちまって」 「いえ、むしろ嬉しかったです」 「お前1人だったの?こんな時間まで六本木でどうした?」 「はい。1人で映画見てました。この前連れて行ってもらった映画、実はちょっとわかりにくかったんでちゃんと下調べしてからもう一回見てきたんです」 「え……わざわざ?」 確かに知識ある状態で見たほうが断然面白いやつなんだけど。 「はい。せっかく先輩が感想話してくれたのに僕ちゃんと答えられなかったから申し訳なくて……」 は?なんだこいつ……いいヤツすぎだろ……俺ちょっと泣きそなんだが?結婚式の後で涙腺バカになってんだからそういうのやめろよ、ほんと。 「先輩大丈夫ですか?もしかしてすごく酔ってます?」 「あ……いやなんでもねえよ。そんな飲んでないって」 「その格好結婚式ですか?素敵ですね。普段も格好いいけどオシャレスーツだとイケメン2割増しです」 「はぁ?」 どストレートに褒められて呆気にとられる。こいつ、自分の顔鏡で見てから言えよ……そういうことはお前みたいな可愛いやつが軽々しく口にしちゃダメなんだ。せっかくうなじの噛み跡でガード固くしてんのに、そんなこと言ったらすぐ悪い虫に食われるぞ。 「お前こそ私服可愛いじゃん」 「え?そうですか、恥ずかしいです……まさか先輩に会うと思わなかったから全然おしゃれな服じゃないし……」 いつもスーツだから、この日みたいにラフな姿は新鮮だった。ゆるっとしたニットから華奢な首が伸びていて、アルファじゃない俺でも思わず噛みつきたくなりそうなくらいだ。恥ずかしがって首まで赤くなっているのが妙にそそられる。 「何飲む?」 「えっと……僕甘いのが好きなんですけど」 「あんまり強いの飲むなよ。お前酔っ払ったら俺今日は我慢できなそう」 「はい……?」 「いや、なんでもねえ」 金子の注文したカクテルが来たので乾杯して飲む。 しばらく飲みながら俺は失恋の愚痴を語った。普段ならこんな話べらべらと喋ったりしないんだが、酒は入ってるし金子が聞き上手なんでつい饒舌になる。 「っとによー、俺なんて小学生の頃からだぜ?アイツのこと好きだったのに。いきなり運命のつがいとかいうのが現れて一瞬で持っていかれたんだ。もう笑えるよな?運命のつがいってなんだよ!んなもん本当にあるのかよ。くっそ……」 ダラダラと文句を言い続ける俺の肩をぽんぽんと叩きながら金子が見かねて言う。 「先輩、もうそろそろお酒じゃないの飲んだほうがいいんじゃないですか?ウーロン茶でも頼みましょうか」 「なんだよ、俺に酒飲むのやめろって言うならお前がもっと楽しませてくれんのかよ?」 俺は金子の長い睫毛に縁取られた目をじっと見つめる。 「ええ?僕一発芸とか何も持ってないんですけど……」 ーーーわざとボケてんのか? 「あのなあ、お前はその見た目がもうずば抜けてるだろ」 俺は金子の顎を指先で持ち上げた。 「え?この見た目で笑い取れそうですか?」 「ブハッ!!なんで笑い取ろうとしてんだよ。そういう楽しみじゃなくて、わかるだろ?」 「……?」 まだわからないようで首を傾げているので俺は肩を抱き寄せて耳打ちした。 「この間のキスの続きしてよ」 「ひぇっ!?」 金子の顔が冗談じゃなくゆでダコのように真っ赤になった。耳を押さえて震えている。 「な、な、なに言ってるんですか先輩!」 「だって、お前俺にキスするぐらいなんだからその気あるんだろ?」 おい、やめろ俺!これじゃあ俺に変なこと言ってきた同僚と一緒のクズ野郎じゃねえか。 「そっ……それは……」 「なぁ。あのキスはどういう意味なの?ねえ、教えてよ金子」 俺に絡まれて金子はうつむき、しどろもどろになって言う。 「え……とそれは……あれは……感謝の気持ちというか……」 はあ、まじでこのうなじに吸い付きたいね。 「ふーん。金子の下の名前なんだっけ?」 「へ?直央ですけど……」 「ナオか~。ねぇナオ。俺とあの時の続きしに行かない?」 赤い顔で目を潤ませ困る金子はめちゃくちゃ美味しそうに見えた。 「え、や、あ……どこ……に」 どこに、じゃなく断れよ。俺みたいな酔っ払いの言うこと間に受けるんじゃねえ! 脳内にかろうじて残っていた理性くんのツッコミにも関わらず俺の口は笑みを浮かべながら言った。 「いいところ」 金子は俯いたまま微かに頷いた。その仕草だけでも初々しくて、グッとくるものがあった。 いや待てよ。初々しいっておかしいな?こいつ、つがいがいた事あるくらいなんだから慣れてるはずなんだけどな……
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